猛牛のささやきBACK NUMBER
佐藤世那、3年目21歳での戦力外。
トライアウトは上手投げで勝負。
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byORIX Buffaloes
posted2018/11/02 11:45
佐藤はプロ3年間で一軍での登板はなかった。今季はウエスタンで8試合に投げ、2勝0敗、防御率4.15。
球速140kmも超えるように。
もともと佐藤は、体の横回転を使う投げ方だったため、以前からサイドスローをすすめる声はあったという。
「比嘉(幹貴)の次を担えれば」という話も佐藤の心に響いた。そこで、悩んだ末に、「そっち(サイド)のほうが生きていけるのかな」と、最後は転向を決断した。
ただ、1年で結果が求められるとわかっていれば、その決断はしなかったのではないか。
しかし逆に、もし転向せずにそのまま3年目を終えて、戦力外通告を受けていたとしたら、「あの時、転向しておけば」と後悔したかもしれない。改めて、プロ選手にとって転向の決断は難しい。
今年の前半は手探り状態だった。新しい投げ方では、今までは痛まなかった部分が痛くなる。ブルペンでは感覚がよくなっても、実戦で投げてみなければ、それが通用するのかどうかわからない。しかし二軍は投手陣が飽和状態で、少ない試合数の中ではなかなか実戦登板の機会が訪れず、もどかしい時間が続いた。
それでも8月には、「やっと感覚をつかめてきました」と明るい表情だった。ウエスタン・リーグの最後の3度の登板は無失点で終えており、球速も140kmを超えるようになっていた。
恩返しがまだできていない。
球団側としては、若いうちに次の道に進ませてあげたいという配慮もあるのかもしれない。しかし選手としては、たった8試合13イニングでは、やるだけやったと納得して次の目標に切り替えることは難しい。
佐藤は、11月13日に行われる12球団合同トライアウトを受けることを決めた。
「いろいろ考えましたけど、受けます。僕は、野球でいろんな人に恩返しをしたいという気持ちでこの世界に入ってきました。両親はもちろん、お世話になった先生方や、同級生、先輩後輩、その人たちの家族もそうですし、本当にたくさんの人が応援してくれました。
その人たちへの恩返しが、まだ自分の中で全然できていない。だからそれができるまでか、もう本当に野球ができない体になるか、どちらかになるまでは、やっぱり野球したいなと思ったので。それが一番です」