イチ流に触れてBACK NUMBER
雪で試合中止。そこで発揮された
イチローの絶妙なリスク回避力。
posted2018/04/15 11:30
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph by
Getty Images
今回も極寒の地、ミネソタ州ミネアポリスでのお話。
フィールドではない、ある場所でイチローがとったある行動に、彼らしさが如実に現れていたのだ。
彼らしさ、というよりは、彼の思考と言った方がいいかもしれない。
その前に、ちょっぴり野球の話も触れておくことにしよう。
気温3度の小雪舞う中、イチローが一塁までを3.88秒で駆け抜けたのは5日のことだった。その翌々日。異常寒波の続く米国中西部の気温は更に下がった。
試合開始午後1時の気温はなんと、氷点下3度。2010年開場のターゲット・フィールド史上で最低気温を記録し、偶然にもその気温は、同じ日の日本最北端の稚内、さらには北極点と同じであった。野球記者生活は日米通算で33年目となるが、北極点と野球が結びつくとは思いもしなかった。
手のしびれまで計算したマルチヒット。
メジャー通算2642試合目の出場となったイチローも、呆れ顔だった。
「風が吹かなきゃいいんだけど、(ここは)風もあるからね。体感気温は相当低いですよ。マイナス9度ですか。いや~、野球をやる気候ではないわね」
この日もユニフォームの下には“パッチ”を忍ばせ、それだけでは足りずにウール地の厚手ストッキングも履いた。普段とは違う防寒対策を施した一方で、プレースタイルはいつもと変わらなかった。
「プロレスラーみたいな人がサードにいますからね。そりゃ考えるでしょう」
3回の第1打席で初球をいきなりセーフティーバント。117キロの巨漢三塁手サノの前に転がし、2日前を上回る3.85秒で一塁を駆け抜けたが、投手ベリオスの好フィールディングで安打を1本損した。
それでも5回に左前打、7回には「(バットの)先より詰まった方がいい」と、手のしびれまでを計算して直球を中前に落とし、メジャー908回目のマルチ安打を記録。「野球をやる気候ではない」中で、しっかりと結果へと繋げた44歳。畏敬の念を感じた酷寒の一戦だった。