酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
日本のサブマリン投手は美しい。
山田久志から牧田和久に流れる伝統。
posted2018/02/26 10:30
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph by
AFLO
何を隠そう、私は若いころ、草野球ではちょっと知られたサブマリンだった。アンダースローのフォームで投げることができた。プロの投手と同様、指を離れた球はくくっと浮き上がったものだ。
ただ、浮き上がった球は打者の手前で打ちごろの高さ、速さになった。私は「確実に安打を打たれる男」として、敵ではなく味方に怖れられたものだ。
「ちょっと知られた」のはそういう意味で、ということだ。
だから私は、今季NPBからMLBに挑戦する3人の投手のうち、とりわけ牧田和久に注目している。NPBからMLBに挑戦した日本人投手は昨年までで45人にのぼるが、アンダースローの投手は初めてなのだ。
ロッテのサブマリンエースだった渡辺俊介が2014年に渡米したが、MLB昇格は果たせなかった。
牧田は「初代和製サブマリン」として、雄姿をアメリカの野球ファンに披露するはずだ。
気づけば下手投げは「絶滅危惧種」に。
牧田和久のアンダースローは美しい。ぐっと体を折り曲げて、地面すれすれでリリースするまで、流れるようなフォームで投げる。その優雅さと、ホップして手元で伸びる球は、それだけで見ものだ。
西武の本拠地、メットライフドームには牧田の投球フォームの大きな写真が掲げられ「絶滅危惧種」というキャッチフレーズがついていた。確かにそう言いたくなるほど、昭和の時代に比べてアンダースロー投手は少なくなっている。
アンダースローと言えば、日本人は「日本野球のもの」と思っているが、元祖はアメリカだ。そもそも野球は下手投げでやる球技だった。オーバースローは1884年に認められるようになったのだ。