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大橋会長が語るボクシングの未来。
井上尚弥vs.那須川天心の可能性。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byIchisei Hiramatsu
posted2018/02/06 17:00
大橋ボクシングジムから世界王者になったのは川嶋勝重、八重樫東、宮尾綾香、井上尚弥の4人。
大橋会長「ボクシングだけで食べていくのは至難の業」
池田 野球の世界で言えば、プロの選手というのは野球だけで食べていく人ですが、ボクシングはどうですか。
大橋 ボクシングだけで食べていくのは至難の業です。実現できているのはプロボクサー全体の3%くらいじゃないですか。なにしろ今、日本のボクシング界で興行を黒字にできる人はほとんどいません。後楽園ホールを満員にしても無理ですね。超満員でも赤字になる計算ですから。
池田 どうすれば、ボクシングだけで食べていけるようになるんでしょう。例えば、世界王者になるとファイトマネーはどれくらいもらえるんですか。
大橋 ピンキリなんですが、一番安い人は300万円ほどで、うちの井上尚弥クラスになると、4000万円以上いきます。井上の場合、これから海外で戦うようになれば、それ以上になると思います。
池田 やはり井上選手のようになることが、ボクサーにとって理想なんですか。
大橋 そうですね。今の子供が憧れているのも、井上尚弥だと思いますよ。
井上尚弥という例外的な存在と、ロールモデル。
池田 野球はお金がグラウンドに埋まっていると言われますし、プロになると年俸1500万円もらえて、一軍に定着すると3000万、活躍すると5000万、1億になっていく。そういう道筋がはっきり見えている。確かにボクシング界における井上選手はすごいんですけど、ロールモデルはどこなんだろうな……。今、国内のボクシング人気を高めるためには海外で試合をやることが一番ですか。
大橋 井上のような選手は、日本ボクシング始まって以来初めてだと思うんです。強くなりすぎて、相手がいなくて大変なこともありますが、海外からいい条件で「こっちに来て試合をやってくれ」というオファーがあります。
僕らの時代は、世界王者はボクシングしかいなかったし、野茂(英雄)もメジャーに行っていなかったし、海外で活躍するプロサッカー選手もいなかった。今はボクシングのレベルとしては昔に比べて絶対に高いんですけど、他のスポーツ選手が外国で活躍しているんで、ボクシングもそういう方向に行かなくてはいけない。だから、井上がラスベガスでやったり、村田(諒太)選手が統一戦やったり、究極的にはヘビー級王者を出すということじゃないかなと思うんですが。
かつてマニー・パッキャオというフィリピンの選手がいて、彼もアメリカで強敵に挑戦して、バッタバッタと強いのを倒していった。ああいうことを尚弥でやりたいし、それをやらせるのが僕の使命だと思っています。