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井上尚弥は一見「普通の人」だが……。
街に馴染まない、拳の異様なオーラ。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byShingo Wakagi
posted2018/01/19 12:10
井上尚弥と町ですれ違っても、彼のモンスター性にはなかなか気づけないかもしれない。
「普通の人」の佇まいの中で、拳だけが異様な気配を。
B 受け答えもしっかりしているしね。ただ、話の中ですごいなと感じたのは、自分が満足するような相手と戦えていないフラストレーションを抱えながらも、技術や体力を磨くモチベーションだけは落ちない。あんなに爽やかなイメージの中に、ものすごく貪欲なものを持っているのかな、という感じがした。
A あとは、個人のことだけではなく、あんなにもボクシング界のことを考えているんだな、というのも驚きでした。自分のことだけに集中して、あとは周囲に任せているのかなと思っていたんですが、すごく背負っているんだな、と。
B インタビュー後の撮影はどう感じた?
A 地元の駅前の風景にすごく溶け込んでいましたね。普通に(笑)。
B そうだね。「この道をまっすぐ行けば、すぐ僕の家ですよ」なんて、道案内までしてくれて。
A 今回、ポートレート撮影のコンセプトが、強すぎるリング上とのギャップを表現しようということだったんで、そうやって普通の風景に馴染んでくれたのは、良かったんですけどね。
B ただ、カメラマンの若木信吾さんが撮影の途中で言っていたことが面白かったんだけど、「確かに普段の街の風景に馴染んでくれたけど、拳だけは普通と全然違って、大きいし、強さを感じた」らしい。
そう言われて見てみると確かに、服で隠せない拳だけは、なんか異様な感じがした。すごく硬そうだし、オーラを放っているような。正直、私服姿を見ると、そんなに大きいわけではないから、「自分でも勝てそうだな……」なんて思っていたんだけど、拳を見たら、「これは絶対に勝てない」と怖くなった。
A なるほど。そう考えると、凄みを感じさせない中に本当の凄みがある人でしたね。そういう怪物性が100%、弾ける瞬間がいつ来るのか。井上選手がインタビューで話していたバンタム級に階級を上げた理由とか、全盛期についてとか、あらためて考えてみると、ますます楽しみになってきました。