ニッポン野球音頭BACK NUMBER
「19.5差」から「1差」の仕切り直し。
“勝負師”ラミレスは広島にどう挑む?
text by
日比野恭三Kyozo Hibino
photograph byNaoya Sanuki
posted2016/10/12 11:45
ファーストステージでの采配が際立ったラミレス監督。実は“短期決戦向き”のタイプなのかもしれない。
「打てる捕手」という選択肢を周到に用意していた。
引き分けでも負けと同等の3位ベイスターズとしては、接戦のまま終盤に入る試合展開となった場合、戸柱を交代させざるをえないケースは十分に考えられる。しかし第2捕手の高城は、自身も「課題は打撃」と認めるように、打席での期待感は高くないのが現実だ。捕手が高城に代わってから、たとえば同点の延長10回、11回に打席が回ってきたとしても代打を送ることはできない。
嶺井は今季11試合の出場ながら、15打数5安打と少ないチャンスでも一定の結果を残している。指揮官は、まさに第3戦の終盤のような局面に備えて、「打てる捕手」という選択肢を周到に用意していたことになる。
加えて、この第3戦で浮き彫りとなったのは、ラミレスの「勝負師」としての一面だった。
鈴木を牽制で刺した左のセットアッパー、田中健二朗の起用法が象徴的だ。
ワンポイントが多い田中に“イニングまたぎ”させた。
田中は今季、チーム2位の61試合に登板し、大きく飛躍を遂げた中継ぎの一人。だがワンポイントの起用も多いため投球イニング数は44と、登板試合数を下回っている。
ラミレスはその田中を、サヨナラと背中合わせの9回のマウンドに送り出した。田中は鈴木を刺してピンチの芽を摘むと、回をまたいで10回も三者凡退に打ち取っている。レギュラーシーズン中、1回1/3といった回またぎのパターンはあったが、まるまる2イニングを田中が任せられた場面は記憶にない。7回か8回が主戦場の田中に、9回と10回を託すというのもかなり異例の策だった。
右のセットアッパー須田幸太を負傷で欠いているというブルペン事情もあっただろうが、「シーズン中と同じ戦い方をする」と“平常運転”を基軸とする一方で、ここぞの場面で大胆な策を打つ“勝負師”ラミレスの顔をのぞかせる選手起用だった。
梶谷隆幸は初めてのCSを「点が入るたびにガキのように喜んでましたね。甲子園を目指して戦っていた高校時代みたいに」と表現していた。梶谷だけでなく多くの選手が、負ければ終わりのヒリヒリした感覚を久しぶりに味わい、ファーストステージではそれがいい方向に、気力の充実という形で出ていた。センバツ優勝投手の田中も第1戦が終わった後、「いつもとは違った楽しさがあった」と充実感を口にしていた。