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阪神の左腕、岩貞祐太がついに変貌!
きっかけは筒香嘉智への「その1球」。
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/05/04 10:00
4月2日のDeNA戦で勝利した時の岩貞。ピンチを三振で切り抜け……吠えた!
筒香に投じた「その1球が自信になりました」。
風薫る5月になった。
どんな世界でも、フレッシュな人材の台頭が期待される季節である。悪戦苦闘しながら、いかに自信をつかめるか。目の前を通り過ぎようとする一瞬を見逃さずにとらえ、自らの糧に変える。そんな人だけが独り立ちしていく。
岩貞もその1人だ。
たった1球が、不安だけが渦巻いていた若者を大きく変えた。
「DeNAの筒香と対戦したときに、3ボール1ストライクから(リードする)梅野が外のスライダーを要求したんですが、僕は首を振ってインコースのシュートを投げました。それで、ファウルを取れた。その1球が自信になりましたね」
今季初登板だった4月2日、横浜でのDeNA戦。7回12奪三振無失点で'16年の初勝利を挙げた試合だ。6回2死走者なしでは4番筒香嘉智と勝負していた。
5球目だ。
梅野隆太郎が内角にミットを構える。胸元をえぐるシュートはググッとわずかに内へ。DeNAの主砲は引っ張ったが、ライナーのファウルしか打つことができなかった。
その直後だ。外角低めに直球を投げ、見逃し三振を奪った。
「理想通りのファウル」で開眼した投球術。
岩貞は言う。
「打者の反応や、そこに投げきれたことですね。その後、外の真っすぐで三振を取るための内側をうまく使えた。理想通りのファウルを打たせられたんです。その前に2本、ヒットを打たれていただけにね」
四球目前のカウント3-1だった。そこで狂いなく制球できたこと、そして、何より内外角の出し入れの感覚をつかんだことが飛躍の大きな要因になった。昨年までは直球が上ずり、変化球もすっぽ抜けた。球を操れず、もどかしげな姿はもうない。速球で内角を突いて意識させ、外角に緩いチェンジアップなどを投じて打者を翻弄する。軸となる配球パターンを確立しつつある。たった1球に詰まっていたヒントを感じ取り、リーグ屈指のドクターKになりきっている。
制球難を克服するためプレート位置を変えた。
自分の弱さと向き合ったこともステップアップできた一因だろう。二軍暮らしが長かった昨年、首脳陣に尋ねたことがある。
「何でコントロールが悪いんですか」
相談相手は、今年から一軍投手コーチを務める香田勲男と二軍投手チーフコーチの久保康生だった。そのなかで提案されたのはプレートを踏む足の位置を変えることだった。左投手は右打者に角度をつけるため、一塁側を踏むことが多い。岩貞も同じだったが思い切って三塁側に変えた。