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ホンダに失望するのはまだ早すぎる!
マンセル、ピケが語る成功への時間。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2015/08/15 10:50
前半戦の締めくくりとなるハンガリーGPではアロンソが今季最高位の5位入賞。後半戦のホンダの巻き返しに期待したい。
勝利にはエンジン、マシン、タイヤのバランスが不可欠。
ヨーロッパラウンドに戻って、ロズベルグと同様にニューエンジンを使うようになったマンセルも、走らせてすぐに勝てるポテンシャルを確信したという。
だが、マンセルはなかなか勝利を挙げることができなかった。
「F1マシンというのはエンジンだけで走るわけではないんだ。そこにはエンジンを載せる車体があり、それを転がすタイヤも存在する。ダウンフォースを生む強靭な車体と、タイヤをうまく使う正確なセットアップがないと決して速く走ることはできない。
ホンダの新しいエンジンはあまりにもパワーがあって、ウイリアムズの車体がそれについていけなかった。リアタイヤがブリスターを起こしやすかった。そこでパトリック・ヘッド(当時ウイリアムズのテクニカルディレクター)がリアサスペンションの改良を決断したんだ」
新しいリアサスペンションを搭載したウイリアムズ・ホンダを駆ったマンセルは、シーズン終盤の第14戦ヨーロッパGPで見事初優勝を果たした。
デビューから72戦目での初勝利は、当時もっとも遅いF1初優勝者でもあった。
「この世界で成功を収めるために大切なことは、降りかかるさまざまな困難に耐え、辛抱強く努力すること。そして、決してあきらめずに自分を信じ続けること。そのことを私はホンダに教えてもらった。
だから、いま厳しい状況にいる彼らには、『あなたたちならきっとできるから、絶対にあきらめずに自分の道を歩み続けろ』と言いたい」
ピケ「もう少し、長い目で見守る必要がある」
そのマンセルと'86年から2年間、コンビを組んだネルソン・ピケは'87年にホンダに初のドライバーズチャンピオンをもたらした。
そのピケも、「成功を勝ち取るには、相応の時間が必要だ」と説く。
「'80年代にホンダがF1に復帰してきたのは'83年で、私はBMWエンジンを搭載していたブラバムにいて、その年チャンピオンを獲得した。別のチームにいたから細かいことはわからないが、当時ホンダがさまざまな問題を抱えていたことはだれもが知っていた。
F1を戦い続けていても成功するのは簡単ではないんだから、F1を休止していたホンダが復帰していきなり勝つほどF1は甘い世界ではない。
たしか'85年だったかな。彼らはエンジンに何か改良を加えたみたいで、一緒に走っていても、明らかにそれまでとは違うパフォーマンスを見せるようになった。それで私も、ホンダがいるウイリアムズへの移籍を決めた。つまりあのときのホンダでさえ、F1を始めてから2シーズン以上は試行錯誤を繰り返していたんだ。
それに比べると、いまのパワーユニットは当時よりも複雑で、かつエンジンがホモロゲーション(認証)されているために、自由に改良できないから、時間はさらに要するだろう。
しかし、'80年代に成功を収めたときのようにホンダが本気でF1を戦い続ければ、彼らがいつか必ず栄光を手にすると私は信じている。だから、マクラーレンも、そして日本のファンも、もう少し、長い目でホンダの活躍を見守る必要がある」
ホンダがF1に復帰したのは、今年の3月。レースはまだ10戦を終えたばかりだ。
評価を下すのは、もう少し待ってからでも遅くはない。