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なぜ世界が井上尚弥をMVPに選出?
減量から解放された「右」の超威力。 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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posted2015/01/06 10:30

なぜ世界が井上尚弥をMVPに選出?減量から解放された「右」の超威力。<Number Web> photograph by AFLO

12年間世界王者に君臨してきたナルバエスをKOで倒し、世界の最注目選手の一角に躍り出た井上尚弥。世界最速の2階級制覇を果たした井上が狙う、次の目標とは?

「反省点? きのうは特にありませんでした」

 この一撃は井上と父の真吾トレーナーが執拗に練習していたパンチだった。

「ナルバエス対策、サウスポー対策で練習してきたパンチ。尚弥は最初、どうしても外側から回り込むような軌道で右を打っていた。それでは当たらない。だから真ん中だよ、真ん中だよ、と言って修正していった。練習でやってきたことが本番にバチーンと出ました」

 真吾トレーナーが言葉を弾ませるのも無理はないだろう。井上はここから試合終了までのわずか6分間でさらに3度のダウンをナルバエスから奪ったのだ。偶発的に生まれたダウンは1つもなかった。

「すべて父と練習してきたパターン。最初の右も、そのあとの左フックも、最後のボディも全部そう。反省点? きのうは特にありませんでした」。試合翌日の記者会見で井上はこう言って笑った。

父が明かした“尚弥洗脳作戦”。

 真吾トレーナーはさらに、衝撃の2回KO劇の内幕を明かした。

「僕の中で“尚弥洗脳作戦”というのがあったんです。あいつもまだ若いし、プロ7戦しかキャリアがない。倒せと言えば絶対に力むんですよ、性格的に。だから『判定勝ちでいいんだ、大差判定で勝つんだ』と言い続けました。

 でもそう言いながら、すべて倒すための練習をしていたんです。尚弥にはもちろん、大橋会長にも本音は言いませんでした。本当のことを知っていたのはかみさんだけ。そうやって尚弥をコントロールしたんです」

 井上の若さと才能、真吾トレーナーの周到な準備がもたらした結末は、日本のみならず海外でも大きな反響を呼んだ。米国の有力ボクシング・サイト「ファイトニュース」と「ボクシングシーン」が相次いで2014年の年間MVPに井上を選出した。欧米のメディアが、世界の有力選手を差し置いて軽量級の東洋人を評価するとは、ひと昔前なら考えられなかった。それほどプロ8戦目の21歳がナルバエスを2回KOで葬った試合はインパクトがあったのだ。

【次ページ】 減量から解放され、手にした圧倒的なパワー。

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