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果たして真実はどこにあるのか?
岩隈のポスティング交渉の裏側。 

text by

菊地慶剛

菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi

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photograph byHideki Sugiyama

posted2010/11/26 10:30

果たして真実はどこにあるのか?岩隈のポスティング交渉の裏側。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

WBCでの投球で一躍メジャーにその名を知らしめることになった岩隈。星野・楽天からのラブコールもあるだけに、難しい選択を迫られている

アスレチックスが提示した年俸はメジャーの一線級!?

 また肝心のアスレチックスの提示額についても、入札額を1910万ドルと算出した上で4年1525万ドルの年俸総額と合わせ、1年平均約850万ドルになると指摘するともに、チーム側が譲歩できたとしても年平均900万ドル近くまでで岩隈サイドの希望額に決して応じることはないと予測している。

 岩隈は現在29歳で、彼のここまでの通算勝利数は101だ。

 そこでメジャーで通算90~110勝している29~32歳の現役投手を調べてみたのだが、クリフ・リーやジェイク・ピービーら8人がおり、彼らの2010年の年俸は503~1500万ドルであった。そのうち850万ドルを超えているのはわずか3投手しかいない。岩隈に提示された年俸は、メジャーで同程度の実績を持つ投手たちと遜色ない金額だということがわかる。

 しかし岩隈サイドとしても、アスレチックスの入札額を含めた評価方法を単純に受け入れられないだろう。代理人も、あくまで選手個人の契約交渉を任されているわけだから、入札額を含まない「年俸」に言及する以外に話のしようがない。そして両者の認識の食い違いのため交渉は頓挫しているわけだが、この相違はどちらかが譲歩しない限りずっと平行線を辿る可能性もある。

分不相応な高額年俸はチームも選手も不幸にする。

 もちろんどちらかの言い分が正しいとか間違っているというものではないのだが、長年メジャーの取材を続けている立場から言えることもある。

 それは、メジャーにおける日本人選手の価値は年々変化しているということと、すでにメジャーでは日本人選手の日本での成績をそのまま鵜呑みに評価することはしなくなったということだ。

 斎藤隆、高橋尚成両投手のように最初は評価が低いながらも予想以上の活躍をする選手もいれば、井川慶投手のように期待通りの投球ができずほとんどマイナーで過ごすものもいる。

 現時点で岩隈がメジャーで通用するかは誰にもわからないということなのだ。

 もし日本と同様の投球を米国で披露すれば、エース級の活躍をすることになるわけだから他チームの1000万ドルを超えるエース投手から比べれば低い評価ということになる。だが、高額年俸通りの活躍ができなかった場合……選手の個人年俸ではなく岩隈に投じた投資の全額を判断材料に、球団とその選手はファンやメディアから厳しいバッシングを受けることになる。高額年俸を得ることだけが究極的な選手の幸福なのかどうか、疑問が残るところだ。

【次ページ】 12月7日の交渉期限まで泥仕合は続くだろう。

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