スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
沈着な長髪投手としたたかなGM。
~SFジャイアンツの大いなる魅力~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2010/10/23 08:00
10月16日、ハラデイに投げ勝ったリンスカム。今季は16勝を挙げ、3年連続奪三振王に輝いた
H2Oは倒せるのか。
倒すとしたら、どこが倒すのか。
2010年ポストシーズンの開幕前、予想の焦点はここにあったはずだ。少なくとも、私はそう考えていた。
H2Oとは水のことではない。ホール&オーツのアルバム・タイトルでもない。
R・ハラデイとC・ハメルズとR・オズワルト。3人の苗字の頭文字を並べるとこうなる。つまり、フィリーズの3本柱だ。「投手の年」と呼ばれた2010年を象徴する強力な先発トリオ、といっても過言ではない。
地区シリーズでレッズと対戦するや、彼らの力量はあらためて証明された。
ハラデイがノーヒッターをやってのけ、ハメルズが完封劇を演じたからだ。
ところが、地区シリーズで絶好調だったふたりが、NLCS(ナ・リーグ優勝決定戦)ではジャイアンツに打ち崩された。打ち込まれたという印象はない。気がつくと失点していたという感じで、結局は敗戦投手の責を負う形になったのだ。
外貌に似付かぬ頭脳的な投球術を披露するリンスカム。
逆にいうと、今季のジャイアンツは相当に面白い。現在ただいま(日本時間10月22日時点)ワールドシリーズ進出さえ決めていないのだが、私は2010年の最も魅力的なチームに選びたい。
ジャイアンツの投手陣はH2Oにそう劣っていない。なによりも、エースのT・リンスカムにオーラがある。痩躯を躍らせ、長髪を風になびかせるワイルドな投球モーションに似合わず、26歳の彼は実に頭脳的な投球をする。ハラデイと投げ合ったNLCS第1戦(ダブル完全試合を夢想した人もいたのではないか)でも、4対3と1点差に迫られたあとの投球術がなんとも冷静沈着だった。
端的にいうと、点を取られたあとのリンスカムはあえて球速を落とし、変化球を多投したのだ。フィリーズの打線は、この切替えについていけなかった。圧巻だったのは7回裏、代打D・ブラウンに対して時速130キロ前後のチェンジアップを4球続けて投げた場面だ。ブラウンは完全にタイミングを狂わされ、最後は145キロの直球に詰まってショートゴロを打たされてしまった。