プロ野球亭日乗BACK NUMBER
メンツとゼニでこじれた統一球問題。
新コミッショナーには正義の番人を!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS/AFLO
posted2013/07/07 08:01
今回の問題を、加藤コミッショナーの個人的な資質の問題にしてしまうのはあまりにももったいない。コミッショナーという存在のありかたについて考える機会として活用すべきだろう。
NPBの面子と在庫処理という2つの問題が隠蔽の要因に。
その裏側には何があったのか?
一つは面子だったように思う。
統一球導入に際して反発係数の下限に合わせるということを決めて発表し、それをメーカーに求めたのはNPBだった。ただ下限ラインに合わせてボールを作れば、必ず下ブレでルール違反のボールが出てくることは、事前にメーカー側からの指摘があったという。
しかし、そこで一度最下限に合わせると発表したことへの面子から、反発係数の基準を再設定するのではなく、逆に新たに許容範囲としてさらに0.01低い0.4034までと独断で定めて、メーカーとの製造契約を交わしている。
そしてボール導入後に起こったのが、今度はメーカーの在庫処理という問題だった。
実際にボールの製造を開始すると、予測通りアグリーメント違反のボールが出た。しかもその量は予想以上に大量だったのだ。
しかし、すでに中国の製造ラインでは10万ダースとも言われる大量の統一球が作られてしまっており、これを消化し切らねばならなかった。契約で0.4034までの反発係数のボールは認めていたために、違反球でもこれを受け入れて使うか、少なくとも買い取ることがNPBの契約義務となっていたわけだ。
ビジネスを優先させるか、厳格な規律を求めるのか。
ボールのスペック変更は昨年の夏過ぎにはNPB内部では固まっていたという。しかし、ミズノが抱える在庫処理には、今年のオープン戦までかかるという計算だった。
もし、ボールの変更を公表していたら、当然、現場からはオープン戦から新ボールへの切り換えが求められていたはずだった。だから公表はできなかった。
「生活の知恵というか……」
下田邦夫事務局長が会見で語った言葉の裏には、こうした事情があったわけである。
さて、こうした経緯を考察した上で、もう一度、問わなければならないのが、コミッショナーにまず求められる資質とは何なのかということである。
ミズノはWBC日本代表の大スポンサーであり、日本球界とは切っても切れない深い絆のある企業である。ならばその関係性を重視して決断することがコミッショナーに求められる資質なのか。
それともルールを厳正に適用するためには、あるときには経済的な打撃も覚悟して決断できる人物こそがコミッショナーとして相応しいのか。