野次馬ライトスタンドBACK NUMBER
“世界一のアニキ”の矜持を守った、
金本グッズは売れ続ける……。
text by
村瀬秀信Hidenobu Murase
photograph byTamon Matsuzono
posted2010/04/26 12:00
「真弓、よくやったー!」
そんな叫び声の一方で
「葛城、今からでも遅くない! 頼むから引っ込めー!」という声が上がっていた。
統一感がまるでない野次。
2010年4月18日。午後1時をちょっと回ったあたりの横浜スタジアムは、ライトもレフトも、一塁側も三塁側も関係なしに戸惑いの声が怒号となって渦巻く。
こんな空気ははじめてだった。
金本知憲の連続フルイニング出場が1492試合で途切れたという目の前で起きた現実。あの時あの球場にいたほとんどの人たちは、それが良いことなのか悪いことなのか判断できずに、浮き足立っていたように思う。
僕もまた、浮き足立っていた。そんな歴史的な瞬間にもかかわらず、頭の中ではある思いがグルグルと離れずにいたのだ。
出場記録が途絶えたことで「1500試合記念グッズ」はどうなってしまうのだろう?
13ゲーム差をひっくり返され優勝をさらわれた悪夢再び?
2年前の秋。首位を独走していた阪神は、最大13あったゲーム差を最後の最後に巨人にひっくり返されるという史上最悪の結末を迎えた。
失意に打ちひしがれたのは、球団、選手、ファンだけではない。優勝を確信し夏頃から大量にVグッズを生産していた関連メーカーも、優勝が流れたことでグッズを廃棄せざるを得ず、総額で約30億円とも言われる多大な損害を被ったと言われている。
今回の1500試合フルイニング出場記録も順調に出場を続けていれば、明日27日の神宮で達成されていた計算になる。
18日の時点で、すでにいくつかの記念グッズは発売のアナウンスがされていることをみても、メーカーが商品を作り始めていたことは間違いない。この不況ではひとつの計算違いが大打撃となってしまう可能性だってあるのだ。大丈夫か?
金本とアドバイザリースタッフ契約を結んでいるファイテン社では、早い段階から1500試合フルイニング出場記念製品の発売を発表し、すでに予約も受け付けていた。
だが、広報担当者からは意外な言葉が聞こえてきた。
「多くのご予約もいただいていましたが、残念ながら記録が途絶えたことで発売は中止。商品は廃棄となりますので幻の品となってしまいました。ですが、“1492試合”と世界記録の数字が確定したことで、新たに『世界記録樹立記念モデル』を発売することになりました。お客さまからのお問い合わせも1500試合モデルを上回る勢いでいただいております」
1500以上に1492が人気?
これまで聞いたことの無いような大歓声が金本を包んだ!
「うちの店はスタジアムから距離があるので、これまで一度たりとも歓声が聞こえたことはありませんでした。だけど、あの時は聞こえてきたんですよ。これまで聞いたことのない大歓声が」
阪神タイガースショップ横濱店の柳本さんは、その日の夕方、届くはずのない歓声に耳を疑った。TVに目をやると、8回の表。バッターボックスには代打で登場した金本が立っている。その姿を観て、歓声の意味を理解した。
「金本選手の決断が、ファンの心を捉えたのでしょう。確かに、昨年までの選手グッズの売り上げでは金本選手がダントツでしたが、今年の開幕からは城島、鳥谷、球児、新井の次まで落ち込んでいました。もちろん、グッズが行き渡ったということもあると思いますが、連続出場に懐疑的なファンも少なからずいたという事実も影響していたのだろうと思います。そんな経緯もあって金本グッズはもう売れないかなと思っていたんですが……スタジアムのあの歓声を聞いて確信したんです。『これは、また金本が来るぞ』って」