F1ピットストップBACK NUMBER
さらに進化を遂げていたレッドブル!
スパ初勝利の裏側にあったドラマ。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2011/09/07 10:30
ベルギーGPの決勝前日に来季の契約を更新したマーク・ウェバー(右)と、今シーズン開幕前に2014年までの契約を結んでいたセバスチャン・ベッテル。進化し、さらに結束が固くなったチームで、2012年も共に戦うことが決まった
異常事態とみてFIAに特別措置も申請したレッドブル。
ネガティブキャンバーは、コーナーリング時に荷重がかかっている側のタイヤはタイヤのトレッド面と路面がほぼフラットに接地するのだが、荷重がかかっていない側のタイヤは上側が内側に傾いたままなので、路面と接地しているのはタイヤの内側だけとなる。しかも高速コーナーでタイヤは外側に引っ張られるようにして摩擦するため、タイヤの内側のゴムだけがいじめられ、異常発熱を起こすのである。
ブリスターは一度発生させてしまうと、路面との接地面積が小さくなるために、グリップ不足を引き起こしてタイヤをさらに滑らせて異常発熱を増長させ、状況を悪化させていく。したがって、最善の策は少しでも早くタイヤを交換させることである。そのため、ピレリはFIAに対して、ブリスターが発生しているタイヤを交換できるよう、日曜日の朝になってFIAに17本の新品タイヤの投入を申請していた。
万策尽きたかと思いきや……レッドブルがとった奇策。
だが、タイヤを新品に交換するという行為はレギュレーション違反である。したがって、下位チームがこれに反対。
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そのため、レッドブルはフロントサスペンションのセッティング変更とタイヤを交換してスタートできるよう、ポールポジションと3番手のグリッドを捨てて、ピットレーンからスタートも視野に入れて、レース前の準備を行うこととなる。
結局、この案は実行しなかったが、レースがスタートしてわずか3周でウェバーをピットインさせ、その2周後にはベッテルもピットに呼ぶという慎重な作戦を遂行したのは、最悪の事態だけは避けなければならないというチャンピオンチームの自負だった。
彼らの作戦はこうだった。最初にピットインさせたウェバーには、とりあえずブリスターが発生しにくい硬めのコンパウンドであるミディアムタイヤに交換してコースに復帰させる。その後、すぐにウェバーがスタート時に履いたソフトタイヤのブリスターをピレリのスタッフとともに分析し、ベッテルのタイヤ戦略を決める。ウェバーのタイヤのダメージが想定内だったため、5周目にピットインさせたベッテルにはソフトタイヤを装着させるという戦略を採ったのだ。