MLB東奔西走BACK NUMBER
野球規則に無い“Unwritten Rules”。
MLBに受け継がれる暗黙の掟とは?
text by
菊地慶剛Yoshitaka Kikuchi
photograph byGetty Images
posted2011/08/09 10:30
7月31日、タイガース対エンゼルス戦、7回裏に起きた問題のシーン。本塁打を放ったカルロス・ギーエン(写真手前)とジェレド・ウィーバー投手が数秒間お互いに睨み合った
7月31日のタイガース対エンゼルス戦は、改めてメジャー球界に綿々と受け継がれている“Unwritten Rules”の根深さを痛感させられるものだった。
すでにこの名称に聞き覚えのある方も少なくないだろうが念のためグーグルで検索してみると、検索結果の最初に登場するのがウィキペディア日本語版の「野球の不文律」だった。
すなわち、メジャー球界の野球規則には“書かれていない”選手が守らなければならないエチケットと考えればいいだろう。そしてメジャー球界ではこの不文律が現在でも厳格に存在し、それを破ったと判断された場合、相手チームからそれなりの報復を受けることになる。まさに今回の試合もその典型だったのだ。
もともとこの試合は、ジェレド・ウィーバー対ジャスティン・バーランダーという今シーズンのサイ・ヤング賞最有力候補の直接対決とあって、全米から注目されていた。その期待通り7回表を終了した時点で、バーランダーはノーヒット・ノーランを続け、一方のウィーバーも3回にマグリオ・オルドネスに許した2ラン本塁打だけに抑える緊迫した投手戦を展開していた。しかし、7回裏に起こった“事件”が、その様相を一変させてしまった。
球場が騒然となった、Unwritten Rulesの応酬。
7回裏タイガースの攻撃。2アウトからカルロス・ギーエンが右翼方向に高々と大飛球を放つ。それが本塁打とわかった瞬間、ウィーバーを睨みつけながらゆっくりと歩を進め、目が合うと逸らすことなく数秒間サイドステップしながら一塁へ向かったのだ。
自分がいた記者席でもタイガースの番記者の1人がその姿を観察しながら「オイ見てみろ! あいつは何をやっているんだ!」と大声を上げるほどの騒動になっていた。
ギーエンが塁を回っている間、普通なら新しいボールを捕手に渡すか投手に放るはずの主審が、わざわざマウンド近くまで行き、ウィーバーに何かを忠告する仕草を見せ、試合再開をする前に両チームに対して警告を発した。明らかに何かを察している様子だった。
そして次の打者の初球。ウィーバーの投げたボールは勢いよく打者の頭上を通過した。その瞬間、主審は即座にウィーバーとマイク・ソーシア監督の退場を宣告。一気に感情が吹き出したウィーバーは、ベンチに引き下がりながらタイガース・ベンチめがけて怒りを爆発させていた。それまで水面下で繰り広げられたUnwritten Rulesの攻防が一気に表面化した瞬間だった。