濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
81戦目・34歳の近藤有己が見出した、
“衰え”とともに闘い続ける境地。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2010/02/14 08:00
手堅い試合運びによって挑戦者・佐藤豪則を判定3-0で退けた近藤有己。暫定王座を防衛し、次回は正規王者の金井一朗と同門対決による王座統一戦を行なう
パンクラスの暫定ミドル級王者・近藤有己は、2月7日のディファ有明大会で総合格闘技キャリア81戦目を迎えた。
デビューは1996年。その翌年にはエースだった船木誠勝に一本勝ちして無差別級王者となり、階級制施行後にはライトヘビー級のベルトも巻いた。さらにUFC、PRIDEにも参戦するなど、経歴は華やかとしかいいようがない。
その一方で、近藤は“取りこぼし”の多い選手でもあった。無名の選手に敗れる場面を、これまで何度見てきたことか。筆者は以前、彼を「デビュー戦の相手に負ける可能性もあるが、ヒクソン・グレイシーに勝つかもしれない選手」と評したことがある。凡戦と大爆発を不定期に繰り返すからこそ、近藤は見続けがいのあるファイターだったのだ。キャッチフレーズは“不動心”。勝っても負けても淡々と試合を重ねていく、大言壮語とは無縁な姿にも不思議な魅力があった。
新鋭とのタイトル戦で発揮された本領。
だが、ここ10試合の戦績は4勝5敗1分と黒星が先行していた。ここまで勝てないと、もはや“取りこぼし”では済まされないレベルである。“不動心”は、勝敗への“無頓着”にさえ見えることがあった。
まして今回の試合は暫定王座の防衛戦であり、相手は34歳の近藤より10歳も若い佐藤豪則である。上り調子の新鋭に王座を明け渡し、キャリアに“トドメ”を刺されるベテラン――。そんな図式を、否応なしに意識せざるを得ないシチュエーションだった。
ところが、である。そんな崖っぷちギリギリの試合で、我々は久しぶりに近藤の強さを実感することになった。1ラウンドにカウンターのワンツーを決めてマットにヒザを着かせると、リカバリーのタックルも抑え込んでパウンドを連打していく。2ラウンド以降はパンチを浴びる場面もあったが、佐藤がタックルに固執したことで近藤のペースが続いた。潰して、上に乗って、殴る。同じ展開が最後まで繰り返されたのである。
驚異的に“重い”腰と、無尽蔵のスタミナから休みなく繰り出されるパウンドの連打。それこそが近藤の武器なのだ。過去に近藤に敗れた選手たちがそうだったように、佐藤も少しずつ、しかし確実に“削られ”ていった。終盤には下からの蹴り上げで逆転のチャンスを作ったものの、優劣は明らかだった。