Column from Holland & Other CountriesBACK NUMBER
ファンバステンの監督術の秘密。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byAFLO
posted2006/05/20 00:00
オランダ代表の会見に出ると、どこの国にいるか、わからなくなるときがある。まずオランダ語、次に英語、そしてドイツ語、たまにイタリア語も飛び出る。その全てを通訳なしで、ファンバステン監督は質疑応答に応じるのだ。
もちろん、全ての言葉がパーフェクトなわけではない。たまにドイツ人にかっこつけた言葉をぶつけられても、「もう1回言ってくれ」と動じずにやりとりして、ちゃんと答える。ファンバステンが動揺したところを、1度見てみたいものだ。
さて、なぜ会見の話を持ち出したかというと、ファンバステンの“吸収力のすごさ”に注目したかったからだ。生活の中で様々な言語を身につけたように、ファンバステンは現役時代に、多くの監督の“作法”を吸い込んだ。
ファンバステンは言う。
「私は幸運にも、多くの名将に出会った。
サッキには、ボールを失ったときのポジションとプレッシングを学んだ。
クライフは、ボールを持っているときに、何をすべきかを教えてくれた。
カペッロからは、リアリズム、つまり、体調が悪いときに、どう我慢して戦うのかを、
ミケルスからは、成功のカギとなる“規律”と“組織”を学んだ」
なぜファンバステンが、監督経験がないとは感じさせないような、魅力あるチームを作ることができたのか。それは、経験不足を補って余りあるほど、現役時代に多くのことを吸収していたからである。それぞれの監督のいい部分をきちんと見抜いて、自分のものにするのは簡単なことではない。
「私の本当の目標は2008年のユーロだ。あまり期待しないでほしいが」とうそぶくが、ファンバステンの自信に満ちた顔を見ていると、もしかしたら、もしかすると、と期待してしまう。
「オランダが世界一になる唯一の方法は、チームとして戦うことだ。だから、ときに無名な選手の方が、チームにより良い解決策をもたらしてくれることがある」
オランダリーグ得点王のFWフンテラーを選出しなかったのも、チームとしての戦い方を重んじたからだ。フンテラーは、点は取れるがコンビネーションは苦手だ。
自らを「理想主義者」であり、「現実主義者」であるというファンバステン。今回のW杯でオランダ人が世界に驚きを与えるとすれば、ヒディンクよりもむしろファンバステンではないか、そんな気がしてしまうのである。