セリエA コンフィデンシャルBACK NUMBER
おかえり、クッキアイオ。
text by
酒巻陽子Yoko Sakamaki
photograph byAFLO
posted2007/12/28 00:00
2007年最後のリーグ戦となった第17節。10試合のうち5試合で6つのPK判定があり、そのうち4つは主審の誤審によるものだった。さらにユベントス−シエナ戦でのFWトレゼゲに対する明らかなファウルがPKと判定されなかったり、ミラノダービーでも同じようなことがあったりで、近ごろはPKの話題がクローズアップされている。
PKはスタジアムのホットな雰囲気を一瞬にして壊してしまうようで、個人的には好まない。しかし、ローマのFWトッティがよくやるクッキアイオ(緩い浮き気味のシュート)だけは別である。あれには美しさを感じ、何度見ても興奮する。得点となるか否かという勝負の瀬戸際に立たされているにもかかわらず、大きなリスクを背負っても神業を披露しようとするそのスリルがたまらなく良い。さらに緩いボールがしなやかにネットの中に流れ落ちていくのを見ると、日本芸術の究極である「わび・さび」さえ感じるのだ。
セリエAの逸品といえるトッティのクッキアイオが、12月22日のサンプドリア戦で「復活」した。長い間クッキアイオを見ていないと思ってはいたが、リーグ戦では2004年10月22日以来と知って驚いた。昨季はPKを4回蹴って(いずれもクッキアイオではなかった)3つも外すという失態を演じたトッティ。ドイツW杯では、意気揚々と「PKを蹴る機会があったらクッキアイオで決める」とコメントしていたが、実際、オーストラリア戦で決めたPKは、多少ボールが浮いていたかもしれないが純粋なクッキアイオとはいえなかった。トッティから見放され、もう日の目をみることはないと思われていたクッキアイオ。しかし、ようやく復活したのである。
欧州CLスポルティング・リスボン戦で怪我を負い、久しぶりの出場となったトッティが、サンプドリア戦ですべての思いをこめてクッキアイオを決めた。この一撃が、エース完全復帰の挨拶がわりとなったのである。その日2ゴールを決めリーグ通産9得点とし、得点ランキングも2位タイに浮上。公式戦では3試合白星に恵まれず、不振に悩んでいたチームに貴重な勝利をもたらした。
エースともに見事に復活したクッキアイオ。伊スポーツ紙は「クッキアイオはトッティからのクリスマスプレゼント」という見出しを掲げた。