プロ野球亭日乗BACK NUMBER
“飛ばないボール”の問題じゃない!?
極端な投高打低の意外な理由とは。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNaoya Sanuki
posted2011/06/14 10:30
セ・パ担当制の撤廃を受け、審判部はキャンプイン前に1泊2日の“合宿”を行なうなど、リーグ間の微妙な違いの統一を図った
ストライクゾーンが想像以上に広がっている可能性が!
「これまでも試合時間の短縮などを目指して、何度かストライクゾーンの見直しはしたことがありました」
今回の審判心理を説明するのは、プロ野球でジャッジをしていたある審判OBだった。
「(ストライクゾーンが狭いとされている)パ・リーグのアンパイアはゾーンを広げる意識が強いので、最初はどうしても必要以上にストライクをコールしてしまう。これは仕方ない心理です。それと同時に、ゾーンは変わらないはずのセ・リーグのアンパイアも、自分たちのゾーンが広いと言われて、それにつられて広めにとる傾向が出ているように思えます。観戦していると上下は低めにボール半分か1個分、横は内外で各1個分、合わせて2個近く広いように見えます」
その結果、開幕から2カ月近くが経過した現時点で、両リーグの3割打者はわずか12人で、昨年の27人から半減した。そして投手はほくそ笑んで、打者にはしかめっ面が増える。
そういうことだった。
飛ばないボールで一番喜んでいるのは球団経営者?
ただ、この極端な成績の変化は、決して投手にとってもプラスだけではない。そんな見方を最後に記しておこう。
「僕が経営者だったらもっと早く国際基準の飛ばないボールを使って、国際基準にストライクゾーンも広げますね」
こう力説するのはあるプロ野球OBだった。
「打率と本塁打、打点で評価される打者は、飛ばないボールでゾーンを広げれば確実に成績は下がる。それでいて投手の最大の評価対象は勝ち星。防御率が上がっても、勝ち星はそう大きな変化はないはずです。しかもこれまでのボールに比べると、飛ばないボールは微妙に重い。そのボールを投げ続ける投手の肩、ひじへの負担は増えて、長い目で見れば実働年数は必ず下がります。経営者にとって選手に払う年俸総額は、これで確実に抑えられることになります」
なるほど……。
実はこの投高打低現象で、本当にほくそ笑んでいるのは、投手でも打者でもない。下を向いて静かに笑っているのは、オフの契約更改を控える球団経営者たちなのかもしれない。