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「野球は歌謡番組じゃねえんだ」。 

text by

海老沢泰久

海老沢泰久Yasuhisa Ebisawa

PROFILE

posted2004/03/15 00:00

 昔の野球選手は無闇に他チームの選手と親しくしたりはしなかった。

 私生活ではどうだったのか知らないが、たとえば長嶋茂雄と村山実、王貞治と江夏豊が試合前のグラウンドでにこにこ笑いながら話をしている姿などは見たことがない。

 昭和40年代のセ・リーグを代表するピッチャーだった、堀内恒夫と江夏と平松政次の三人もそうだった。彼らがたがいにはげしい敵愾心を燃やしていたことは知っているが、仲よしだったなどという話はきいたこともない。

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 だから、彼らの対決にはつねに糸をぴんと張りつめたような緊張感があり、ぼくらもたがいに敵と見さだめた者同士の死闘をそのまま信じて、息をのんで見つめた。殺伐だったかもしれないが、それが昔の野球だった。

 しかし、いつごろからだったか、昭和40年会だの45年会だのという同年生まれの選手同士の集まりをつくるのがはやりになってから、それが変わった。なんだ、彼らは敵同士ではないのかとわれわれが思うようになったといったほうがいいかもしれない。いまはそれらのつながりがさらに拡大し、試合前のグラウンドでこれから戦うチームの選手同士が笑ってふざけ合ったりするのはあたりまえになり、ちがうチームの選手同士が自主トレを一緒にすることさえ珍しいことではなくなった。見ていて勝負の緊張感に欠けることおびただしい。

 また、昔の選手は、長嶋や王や野村克也がそうだったように、ホームランを打ってもガッツポーズなどはしなかった。むろん、ベンチにいる選手が全員で立ち上がって彼らを出迎えるというようなこともしなかった。彼らにとってホームランを打つのはあたりまえのことで、特別のことでもなんでもなかったからである。また、これみよがしのガッツポーズをするのは、ホームランで打ちのめされているピッチャーをさらに打ちのめすことでもある。

 しかし、いまの選手は、年に1本か2本しか打たない選手ならともかく、30本も40本も打つ選手でもガッツポーズをする。彼らは2億も3億ももらっているのだから、ホームランを打つのはあたりまえの仕事のうちなのである。あたりまえの仕事をしただけなのに何がうれしいのかと思うが、彼らはあたりまえの仕事を誇って恥ずかしいとは思わないのである。あれを見ていると、ぼくはいつも頭のわるいガキ大将を思い出す。

 当然のことながら、昔は選手のテーマ曲などという子供じみたものもなかった。しかしいまは何がいいのか、選手ごとにそれらが決まっていて、打席にはいるごとに球場に流れるのである。

 ジャイアンツの堀内監督は、ジャイアンツの選手にはそれらを禁じるらしい。

 選手のテーマ曲については、

「野球は歌謡番組じゃねえんだ」

 といっている。

 ぼくはアンチジャイアンツだが、それをきいて今年のジャイアンツにはちょっと注目してみようという気になっている。堀内監督のいうとおりになれば、待望久しい、大人の野球のように見える野球が見られるかもしれないからである。

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