プロ野球亭日乗BACK NUMBER
蘇った「7番=お掃除屋」論。
阿部慎之助が若手を成長させる!
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byTamon Matsuzono
posted2010/01/02 08:00
日本シリーズMVPに輝くなど大車輪の活躍をみせ、契約更改では今季から8000万円増の3億5000万円のベースの3年+1年オプション付きの複数年契約を締結。取得したFA権を行使せず残留する主将は“生涯巨人”を明言した
7番打者の役割とは何か?
一つの答えを見せてくれたのが、日本一に輝いた巨人の7番打者・阿部慎之助捕手ではなかっただろうか。
「例えば僕が、ワンアウトからシングルヒットを打って一塁にランナーで出ても、ベンチは鬱陶しいでしょう」
阿部はいたずらっぽくこう語る。
「足が速いわけでもないし、後は8番、9番。もちろんシチュエーションにもよるんですけど、ベンチが僕にシングルヒットじゃなくて、二塁打を打って欲しいだろうなあってことはよくあります」
確かにそうだ。
阿部が一塁に出ても盗塁があるわけではない。8番打者が送りバントをしても次は9番。7番という打順の難しさはそこにある。
セ・リーグトップの長打率が示す7番打者・阿部の特異性。
「だから……」
阿部は続けた。
「今年はバッティングを意識的に変えました。意識して長打を狙って打席に入るケースを増やしました」
'09年シーズンの阿部の打率は2割9分3厘と3割には届かなかった。確率はわずかに落ちたかもしれないが、その代わりに特筆すべき数字がある。
長打率だった。
5割8分7厘はセ・リーグではナンバー1。両リーグを通じても、西武・中村剛也内野手の6割5分1厘(これは日本球界では突出した数字です!)に次ぐ2番目の高さとなる。もちろん長打率上位の打者は、チームでクリーンアップを打つ選手がほとんど。その中で、7番打者のこの数字は、阿部の特異性を表すものとなっている。
阿部は藤田元監督の“7番論”を体現する長距離打者だ。
「6番、7番打者は第2のクリーンアップだ」
こう語っていたのは亡くなった藤田元司元巨人監督だった。
'89年から4年間、指揮を執った第2次政権のときに篠塚、原、クロマティーらで3、4、5番を組むと、その後の6、7番に岡崎、駒田を起用。この二人で残った走者を、きれいに返して塁上をお掃除(クリーンアップ)させた。
「3、4、5番のヒットで点が入ると一塁に走者が残るケースが多いが、あまり動きようがない。だから6、7番には率ではなく大きいのを打てる打者がいるのがいい。あの打順に一発や長打のある打者がいるだけで相手バッテリーは神経を使うし、気持ち悪いものなんだよ」
藤田監督は説明していた。
足のない走者を一塁に置いて、7番打者に「打たれてもシングル」と思えば、相手バッテリーは精神的に楽になる。打者への攻めも幅が広がる。だが長打を警戒すれば四球も増え、塁上に走者を溜められる。7番打者は確率は低くても、そういう威圧感のある打者が最適ということだった。
その7番論を体現した打者が'09年の阿部慎之助だったわけだ。