MLB Column from USABACK NUMBER
大型不況も何のその。
ヤンキース札びら攻勢の元気。
text by
李啓充Kaechoong Lee
photograph byREUTERS/AFLO
posted2008/11/25 00:00
11月12日、レッドソックスが、来季のチケットを値上げしないと発表した。1996年のシーズンから13季連続で値上げを繰り返してきただけに、「値上げしない」という決定は、当地では「14年ぶりの事件」として報道されたが、経営陣は、「経済が厳しい今、値上げをするのはファンにとって酷」と、大型不況への配慮が理由と説明した。2003年5月以来、469試合連続満員売り切れ(MLB記録)と、チケットが「プラチナペーパー」化している超人気球団でさえも、現在の厳しい経済情勢は無視できなくなっているのである。
レッドソックスに限らず、ここ数年、MLB全体が高人気とそれに伴う高収入を享受、たとえば、今季のMLB総収入は65億ドルと史上最高額を記録した。しかし、不況の長期化が予想される中、コミッショナーのバド・セリグも、「高人気にうぬぼれてはいけない。来季の値上げを控えるように」と、オーナー達に警告する事態となっているのである。
と、ほとんどのチームが大型不況という「嵐」に備える中、「不況なんか関係ないもんね」といわんばかりに、大物FA(複数)の獲得を目指して札びら攻勢をかけようとしているのがヤンキースだ。すでに、懸案の先発投手陣強化に向け、C・C・サバシア(ESPN.comによる今オフFAランキングの第2位)に対し契約期間6年・年俸総額1億4000万ドルと、契約が成立した場合投手として史上最高額となる条件を提示済みであるだけでなく、A・J・バーネット(同4位)、デレク・ロウ(同5位)とも交渉に入る意向と報じられている。さらに、打線の補強に関しても、チーム首脳が、マーク・テシェラ(同1位)、マニー・ラミレス(同3位)獲得に乗り出す可能性を示唆、FAランキング上位5人の「総取り」も夢ではないような元気を見せている。
もともとヤンキースは、ニューヨークという巨大市場に君臨するだけでなく、所有TV、YESが上げる高収入によって財政状態は極めて良好なのだが、今オフの場合、札びら攻勢をかける上で追い風となっているのが、いよいよ来季に迫った新ヤンキー・スタジアムの開場だ。新球場では供給(客席総数)を減らすことで価格をつり上げる作戦が奏功、日本では想像もできないような高価格のシーズン・チケットが、飛ぶように売れている。たとえば、本塁・内野近くの「プレミア・シート」(価格約400―2000万円)はすでに4300席中3500席が、VIPルーム(英語ではluxury suite、価格約6000―8500万円)も51室中44室が売れ、不況などどこ吹く風という活況を呈しているのである(ちなみに、市高官の観戦用にと、VIPルーム1室がニューヨーク市に無償供与されたが、建設資金の借り入れに際して税制上の優遇処置をしてもらった「見返り」と噂されている)。
さて、ヤンキースが獲得の最優先目標とねらうサバシアだが、いまのところ、金銭的条件で対抗しうる球団はないだろうといわれている。しかし、ここで忘れてならないのは、これまで年俸総額1億ドルを超える巨額契約を結んだ投手(ケビン・ブラウン、マイク・ハンプトン、バリー・ジート、ヨハン・サンタナの4 人)の中で、期待外れの結果となっていないのは、契約後まだたった1年しかプレイしていないサンタナだけである事実だ。前例を見る限り、たとえヤンキースの札びら攻勢が成功したとしても、サバシアの契約が「アホウドリ」とならない保証は何もないのである。