濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
ケージを突き破った、
『DREAM.12』のコアな勝負論。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph bySusumu Nagao
posted2009/10/27 10:30
桜庭は試合開始と同時にガレシックに突進。マウントを取られて顔面へ強烈な連打を浴びつつけたが、1分40秒、左ヒザ十字固めで退けた
勝ち負けの重さが選手と観客を加熱した。
では、なぜ『DREAM.12』で好勝負が連発したのかといえば、そこにシビアさがあったからではないか。ゴールデンタイム中継のない“谷間の興行”で組まれた一般的には「弱い」とされるカードは、見方を変えればコアな魅力にあふれていたのだ。
前田vs.ビービはフェザー級戦線での生き残りをかけた試合だった。ザロムスキーの相手ミョンホも、初参戦ながらDEEP、MARSなどでの実績は充分。グラウンドも含めたトータルな実力では王者を上回ると言ってもいい選手だったのだ。アルバレスはMMAライト級の世界トップ10に入る強豪であり、彼に無敗の新鋭・菊野が勝てば、ライト級のヒエラルキーが激変する可能性があった。そして桜庭と対戦したガレシックは、ミドル級GPベスト4の選手。『DREAM.11』で行なわれたルビン“Mr.ハリウッド”ウィリアムズ(この試合がMMAデビュー戦だった)のような「顔見せマッチ」とはわけが違う。
どちらが勝つかまったく分からない。そして負けた選手はキャリアに決定的なダメージを負うことになる。そういうシビアさが、選手たちが繰り広げる攻防と観客の心を加熱していったのである。
この日、会場に足を運んだファンの多くが「次にDREAMが大阪で大会をやる時は、絶対に来よう」と思ったのではないか。そのことで、DREAMのブランドイメージは確実に向上した。勝負のシビアさと、それに真正面から向き合う選手の姿は、どんなギミックにも優るのだ。