青春GOLF ――石川遼に密着! BACK NUMBER
熾烈なる賞金王争いの合間に……。
石川遼のちょっとした息抜き。
text by
雨宮圭吾Keigo Amemiya
photograph byKYODO
posted2009/09/19 08:00
9月17日に18歳となった石川遼。本来ならば遊びたい盛りのはずだが……スター選手の辛いところである
石川遼は勇気を振り絞った。それは彼にとって、ひょっとしたらどんなショットよりも挑戦的な行為だったかもしれない。
オーガスタのガラスのグリーンでパットをするわけではない。猛るリンクスの風の中でドライバーを振るわけでもない。挑戦の舞台は日本全国どこにでもあるのどかな郊外大型ショッピングセンターである。
ショッピングセンターに石川遼が! 周囲の反応は!?
8月の遠征で革靴を忘れたことに気づいた石川は、いい機会だからと靴と洋服を買いに出かけることにした。とはいえ超有名人。群がる人々のサイン攻めに携帯電話のシャッター音の嵐。そんな外出先でのパニックを予期して、これまで人目につくような場所での買い物には消極的だった。
石川はスタッフと頭を悩ませる。
「どうしたら気づかれないで済むんだろう」
「大勢でいるから気づかれちゃうんじゃない?」
「じゃあ、ひとりで行ってみよう」
コースではキャディーやマネージャーら大勢の人に囲まれている石川が、徒党を組むことなくひとりきりでひょいっと店に飛び込んだ。だてメガネくらいはかけたが、それ以上の変装もしなかった。
チャレンジは見事に成功。さしたる混乱が起こることもなく、石川はいろんな洋服を買って回れたのであった。
「どうすればいいのか分からない時もあったけど、将来は普通に歩けるようになると思う。まだ勇気がないというか、慣れてないだけ。僕が慣れていけば普通に買い物もできる」
以前にそう話していたこともある石川が踏み出した「慣れ」への第一歩だった。
ゴルファーとして強烈な輝きゆえに忘れてしまいそうになるが、まだまだ高校生。人並みにオシャレにも気を遣い、買い物も昔からの気晴らしの1つだった。
ちょっぴりドキドキしつつも、ひとりで自分の欲しいものを探し出す作業はさぞや楽しい時間だったに違いない。
何気ない日常の出来事が石川にはリフレッシュに。
全米プロ選手権から始まった17週連続出場はまだ2カ月以上続く。フジサンケイ・クラシックでの今季3勝目で賞金ランクは1位に浮上し、これから賞金王争いは佳境を迎える。プレジデンツカップの世界選抜メンバーにも選ばれ、日程的にはさらに過酷さを増した。そんな中で肉体だけでなく、精神面のリフレッシュは必要不可欠だ。
大型スーパーに洋服を買いにいく。たいていの人にとって日常的な出来事も、あらゆる人に顔を知られたプロゴルファーにとっては非日常の出来事。
ひょっとしてその瞬間を見かけた人がいたとしても、どうか邪魔をしないであげてほしい。彼にとっては大きな勇気を振り絞って得られる小さな愉悦の時だから。