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<パ・リーグ新世代監督が語る3つのリーダー論> 渡辺久信×秋山幸二×西村徳文 「革新をもたらした若き指揮官の言葉力」 

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永谷脩

永谷脩Osamu Nagatani

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photograph byHideki Sugiyama

posted2011/03/09 06:00

<パ・リーグ新世代監督が語る3つのリーダー論> 渡辺久信×秋山幸二×西村徳文 「革新をもたらした若き指揮官の言葉力」<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama
若い3人の指揮官が今、注目を集めている。
昨季、混戦のパ・リーグで優勝争いを演じた監督達である。
彼らの戦い方は三者三様だが、言葉を重視するところに共通項がある。
新たな時代を担う智将たちは選手の力をいかに引き出すのか――。

「パ・リーグの時代」と言われて数年が過ぎた。そしてその流れは今年も変わりそうにない。60歳を過ぎた星野仙一が楽天監督に就任し、キャンプ序盤の話題を集めた。斎藤佑樹が入団した日ハムを率いる57歳の梨田昌孝監督、そして53歳の岡田彰布・オリックス監督も虎視眈々とリーグ優勝を狙っている。

 しかし昨季終盤、クライマックスシリーズ(CS)を沸かせたのは、若い監督たちであった。監督就任初年度のロッテ・西村徳文、2008年に監督就任1年目で日本一に輝いた西武・渡辺久信、そして昨季7年ぶりにリーグ制覇を果たしたソフトバンクの秋山幸二。

 この3人にはいくつか共通項がある。現在監督を務めるチームで主軸として活躍し引退後、二軍首脳を経験。そしてその後、手腕が認められ40代で一軍監督へ抜擢されたことだ。

 昔から渡辺は周囲に対しての気配りと洒脱な会話で、ムード作りが上手だった。一方、真逆な性格だったのが秋山。寡黙な男で、熟考を重ねた上で行動するタイプだった。そして西村は決して時の流れに逆らうことのない常識人である。みな優れた人間性の持ち主であり、硬骨漢だった。

 3人が監督に就任した今、二軍時代に育てた選手たちが、チームの中心として活躍している。また現役時代ともに戦い、気心が知れた選手たちも多くいる。果たして新世代の指揮官は彼らにどのような言葉をかけ、チームを引っ張ってきたのだろうか。そして混戦を制し、いかにCSへと導いたのだろうか。

西武・渡辺監督にかけられた一言に涌井は「久しぶりに燃えた」。

 昨年、首位を快走していた西武に陰りが見えたのは7月。大久保博元二軍打撃コーチの解任騒動がきっかけだった。

「理由のいかんを問わず、部下を守ってやれなかったのは自分の責任」

 大久保の解任が正式に決まると、渡辺は自分の非をチーム関係者の前で口にした。その姿をみてエースの涌井秀章は「一緒に戦ってくれる人だ」と感じたという。

 涌井にとって渡辺は入団時の二軍監督。「プロで生きていくためには投球スタイルを変えなければいけない」と忠告され、育てられ、鍛えられた恩人だったということも影響しているのかもしれない。渡辺も涌井を信頼し、大切なゲームで起用し続けた。

 ソフトバンクに首位を譲った西武はCSでロッテと対戦。後半戦、調子を落としていた涌井だったが、渡辺は迷わず初戦の先発に決めた。「お前がエースだ」。マウンドに送り出すときに渡辺は涌井に一声かけた。涌井はこのひと言で久しぶりに燃えたという。

 この言葉が支えになり8回1失点の粘りの投球を見せた涌井。しかしチームが追加点を挙げ勝負を決定付けた時、渡辺は迷わず抑えのシコースキーをマウンドに送った。

 渡辺は日本球界引退後、言葉が全く通じない台湾プロ野球でコーチ兼任選手として、3年間プレーしていた。その時の教訓はただひとつ。「言葉は通じなくても接し方ひとつで必ず気持ちは通じる」だった。渡辺にも「外国人選手」の経験があるのだ。

【次ページ】 「どんな些細なことでも自分の言葉で語っていく」(渡辺)

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