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“飛びすぎる金属バット問題”は中村奨成「清原和博超え6HR」の10年以上前から深刻だった…“日米の開発対立”舞台ウラを高野連が明かす 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2024/04/06 17:01

“飛びすぎる金属バット問題”は中村奨成「清原和博超え6HR」の10年以上前から深刻だった…“日米の開発対立”舞台ウラを高野連が明かす<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2017年夏の甲子園で清原和博の持つ1大会本塁打数を更新した広陵・中村奨成

 2007年9月、高野連、アメリカのアマチュア野球を統括するNCAA(全米体育協会)の幹部、日米のバットメーカーの担当者がアメリカのホテルに集まって、世界のバットの基準統一を提案するための合同会議が行われた。

 ポイントは(1)安全なバット、(2)耐久性、(3)試験方法の3点だった。

 アメリカはすでにBES-R(Bat Exit Speed Ratio)という検査方式をクリアした金属バットを導入していた。

 BES-Rは、試料バットのグリップを固定し、90mph(145km/h)のボールをぶつけたときの打球速度係数を出し、基準値以下の製品を合格としていた。日本側はBES-Rの製品の規格については理解したが、検査環境や検査に使用するボールなど同方式をそのまま導入するのは難しかった。

 また同方式では木製バットと5%程度の数値の差異があり、アメリカではこれを容認していたが、日本側はその差を縮めるように要求した。そのうえで、日米で木製バットに近い金属バットを開発するという合意が持たれた。

日米の主張が対立し、平行線となったワケ

 翌2008年8月の第2回会議では、米側は「秋には日本の要望にもそう新基準を打ち出すので本日のところは互いの取り組みを尊重する」との要望があり日本側も了承。アメリカ側も開発に時間をかけ、慎重を期したことがわかる。

 秋になって米側はBBCOR(Ball-Bat Coefficient Of Restitution)という新たな検査方式を提案してきた。これはBES-Rに加えてバットの慣性モーメント(MOI)を加えた打球の反発係数によって製品を検査するものだった。

 この話し合いを通じて、日米の金属バットの「開発姿勢の違い」が浮き彫りになる。端的に言えばアメリカは「破壊検査」、日本は「非破壊検査」を主張していた。

 アメリカは、バットにボールをぶつけて、その数値をもとに基準を設定するという「動的試験」を重視していた。しかし日本にはBES-RやBBCORの測定試験機は存在せず、導入には巨額の費用が見込まれる。

 日本側としては、安全性を担保するとともに、数多くの金属バットを生産するためにも製品設計によって強度を抑制する。そして大掛かりな機器を必要としない「静的試験」を重視したい。日米の主張は対立し、平行線となった。

検査方法が大きなネックとなり、開発は中断した

 日本高野連とNCAAはこの年、18歳以下のAAA大会で、IBAFによって使用が禁止された金属製バットが再び承認されるよう共同提案することで合意したが、日米の共同歩調はここでストップした。

 日本側は、アメリカに対して検査基準の緩和を求めたが、受け付けられなかった。アメリカ側は「検査方法も、使用ボールもすべてアメリカと同一でなければならない」とした。

 昨今の「申告敬遠」や「ワンポイントリリーフの禁止」などのルール改定でも、MLBを頂点とするアメリカ側は日本や他の国と協議することは一切ない。

【次ページ】 取材を進める中でアメリカ側の言い分を聞いたが…

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