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「代打、来るやろ」阪神・岡田彰布監督はオリックス・中嶋聡監督との読み合いを楽しんでいた? 佐藤輝明、奇襲の二盗に湯浅京己投入の大博打!
text by
酒井俊作Shunsaku Sakai
photograph byNanae Suzuki
posted2023/11/10 17:01
阪神タイガース38年ぶりの日本一を果たした岡田彰布監督(65歳)
奇襲の二盗は阪神ナインの「進化」の証でもある。岡田が「佐藤は思い切りがいい。『初球から行きよった』と思ったけどな」と説明する。あの場面は走るタイミングを佐藤輝に任せた上での単独スチールだった。
ここには岡田の柔軟な姿勢が表れている。実はシーズン中、盗塁についてはひそかに方針転換していた。監督就任直後の昨年10月、選手に盗塁の判断を委ねる「グリーンライト」ではなく、監督自らの「ディスボール」のサインで走らせる方針を打ち出していた。開幕当初こそ、そのスタンスだったが、脚力のある選手も多く、数カ月後には「ディスボール」のサインが減り、選手の判断に委ねるケースが増えていった。
第2戦はオリックスが反撃する。前夜から8人の打順を入れ替えて12安打8得点。自軍の選手の状態、相手投手との相性からスタメンを決める中嶋の真骨頂だった。先発の宮城大弥も速球で押し、6回無失点と好投した。
第3戦はオリックスが1点差の勝負を制した。第1戦で佐藤輝の奇襲に遭った若月は3回、近本光司の二盗を阻止し、先発の東晃平をもり立てた。阪神一塁ベースコーチの筒井壮には気づいたことがあった。
「初戦と比べても、若月の腰の高さが全然、違いました。走られた時に刺しにいくための彼のスタイルなのだと思います」
若月は第1戦の夜、映像を見直し、山本とも話し合った。クセなのか、スキなのか。捕手の構えから球種を察知される恐れもある。高く構えることで自らのクセもスキも消し、それが素早い送球にも繋がった。
“読み合い”を楽しむ岡田監督、湯浅登板の大博打へ
両チームの駆け引きがあらわになったのは第4戦である。岡田は中嶋との読み合いを楽しんでいた。終盤はオリックスが押し気味で、同点の8回も1死一、三塁のピンチに陥った。中嶋がT-岡田を代打で起用すると、岡田は左腕の島本浩也に継投した。三塁ベンチを見ながら、つぶやいた。
「Tか? そのままか? 代打、来るやろ」
読み通りだった。中嶋は再びベンチを出て小技ができる安達了一の代打を告げた。だが、岡田は中嶋の用兵を先読みし、手を打っていた。島本は右打者を苦にしない。代打の代打が登場することも想定した上で投入していたのだ。安達を三ゴロに抑えて2死になった。
なおも一、三塁に走者が残り、中川圭太が打席に向かう。不穏な空気が続くなか、岡田は大博打を打って試合を動かした。
湯浅京己の登板――。
甲子園がどよめいた。賭けでもあった。
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