森に絶対勝つんだと本気で思っていた

　チームの練習は毎朝8時半から始まるが、6時前には起きて自主練習するのが久米さんの日課だった。当然、練習後の夜間もバットを振り込む。2年春の選抜大会からレギュラーとして藤浪とバッテリーを組んでいた森とは違い、2年生までメンバーに入れず公式戦になるとスタンド応援やボールボーイばかり。それでも心が折れることはなかった。

「ほんまに甲子園に出たい。甲子園で優勝したい。森に絶対勝つんだと本気で思っていたんですよ。今考えればあんなレベルの選手と張り合うなんてアホくさいですけど、当時は何がなんでも抜かしてやると必死でした。朝も晩も毎日、練習量だけは一番でした」

高校時代、同じ捕手のポジションを争った森（左）と久米さん　©Asahi Shimbun

藤浪の球は「まるで漫画みたい」

　練習中のブルペンでは藤浪の球を受けることもあった。当時、「東の大谷翔平、西の藤浪晋太郎」と言われた世代ナンバーワン投手。

「まるで漫画みたいに、ボールが自分に向かって大きくなるような感じで近づいてくるんですよ。フォークもスライダーもキレがすごくて、集中していないと絶対に捕れない。これが世代ナンバーワンのピッチャーの球かとめちゃくちゃ楽しくて、夢のような時間でした。藤浪さんは当時から自分のやるべきことを徹底してできる人。いい意味で個性的でマイペースで周りに左右されない。でも後輩にはすごく優しくて気を遣ってくれました」

ひときわ目立っていた藤浪、左隣は決勝を戦った北條史也　©Hideki Sugiyama

西谷監督にコンバートを訴えると…

　その凄まじい藤浪の球を正捕手として涼しい顔で受けていたのが森だった。どんなに必死に練習しても、追いかける背中は遠くなっていく。なんとか試合に出たい久米さんは、一度だけ西谷監督にコンバートを訴えたことがあった。

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