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「藤井聡太の殺気が漂っていた」豊島将之に6連敗…”人生最大の逆転負け”の夜、藤井が新幹線ホームで師匠・杉本昌隆に聞いたこと 

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杉本昌隆

杉本昌隆Masataka Sugimoto

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2023/10/13 06:02

「藤井聡太の殺気が漂っていた」豊島将之に6連敗…”人生最大の逆転負け”の夜、藤井が新幹線ホームで師匠・杉本昌隆に聞いたこと<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

対局中、感想戦でも落ち込むように考える姿を見せる藤井。中でも師匠が藤井に声をかけるのを憚られたほど「荒ぶった」一局があったという

 先入観がないという点では「AI的」ともいえますが、AIを使っているから気づけたかといえば、そうでもない。藤井はコンピュータを全然使わない頃からそういった発想をしていましたので、その思考回路はもう才能、もって生まれたものだろうと思います。

将棋のことは神様にお願いしてもしょうがないので

 藤井の運頼みをしない姿勢は、日常生活にも見受けられます。

 受験の願掛けとして神社に絵馬を奉納する方も多いと思います。棋士も同じく、神頼みをすることがあります。棋士がよく詣でる聖所として、鳩森(はともり)八幡神社といえばご存じの方も多いかもしれません。

 ところが、藤井には神頼みをする発想もまったくないようです。

 以前、神社に(おもむ)いた藤井にテレビの取材が入ったことがありました。そこで藤井が神様にお願いしたこととして語っていたのは……自分の将棋のことではなく、兄の大学受験合格についてだったそうです。取材に対して藤井は「将棋のことは神様にお願いしてもしょうがないので」といった趣旨のことを語っていました。

 そもそも運に頼ろうだとか、幸運を願うだとか、ついでにいうと、相手の不運を願うということもありません。

 運に頼らないことで、より自分の力、自分がもつ本物の強さ、言い換えれば実力が引き出されてくるのです。

 ただし、それは常人には真似できない考え方ということも事実でしょう。

運に左右されない人は本物

 藤井は運の悪さ(=失敗)をリカバリーする能力が抜群です。

 三段リーグで半年待たされた後は、すぐに最短の一期抜けを果たし、最年少プロとなっています。また、王将戦で最年少挑戦が絶望的になったかに思えましたが、その年の六月から始まった棋聖戦で、これしかないという、蜘蛛の糸をたぐり寄せるかのようなギリギリの道筋で挑戦者に辿り着きました。さらに、第77期順位戦C級1組で惜しくも昇級を逃した次期、第78期順位戦では、全勝の一位でB級2組に昇級しています。

 運を感じさせない棋士だと評したのも、これらの実績を()の当たりにすれば自然な感想といえるでしょう。運に左右されない人は本物だということです。

師匠が忘れられない2020年のある対局

 2020年10月5日、関西将棋会館で行われた第70期王将戦挑戦者決定リーグ。

 それは今でも忘れられない光景です。

 藤井聡太が、ここまでの躍進に至る契機となったと思える、私の心に強く印象づけられた出来事でした。

 当時、豊島将之竜王・叡王vs.藤井聡太王位・棋聖という二冠同士の直接対決でした。

 藤井はここまで対豊島戦では一度も勝てずに5連敗。

【次ページ】 勝利目前→大逆転負けに、藤井は…

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