角田の可能性をだれよりも高く買っているのは、もちろんトストだ。だから、角田が1年目にクラッシュしても、たびたび無線で暴言を吐いても、たしなめることはしなかった。しかし、トストはクラッシュしたり、暴言を吐いてもいいと考えているわけではない。そういうことをいちいち注意することで、ドライバーが自信を失うことを恐れているのである。自信を失ってこの世界から出ていったドライバーをトストは何人も見てきたからだ。

　さらにトストには、角田ならリカルドという壁を乗り越えられるという自信もあった。

「『ダニエルが加入したからといって、あまり意識せずに、ユウキは自分のやりたいようにやれ』という言葉には、角田ならリカルドから何かを学び、さらに成長してくれるという信頼感が見え隠れする。

どんな展開でもベテランらしい安定したレース運びを見せるリカルド。角田が学ぶべきものは多い　©Getty Images / Red Bull Content Pool

前半戦の最後に見せた成長の兆し

　果たして角田はトストの期待に応え、ベルギーGPでは今季3回目のポイント獲得となる10位フィニッシュ。リカルドから学んだものを自分の中で消化させて新たなエネルギーにして、またひとまわり大きく成長したレースを披露した。

「フランツの温かいサポートがなかったら、いまの僕は存在していなかったかもしれない」と語る角田を抱きしめるトストだが、すでに今シーズン限りでチーム代表の座を降りることを発表している。

「フランツが笑ってチームを去ることができるようなレースを、後半戦もやり続けたい」

　リカルドという新しいチームメートによって、さらにひとまわり成長した角田。8月25日から始まる後半戦からは、いままでとは少し違った新しい角田裕毅が見られるかもしれない。