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傷心の永里優季に「てか、なんでいないんだよー」宮間あやが気遣い、安藤梢が「トロフィーを長く持ちすぎで」笑いあった日〈なでしこW杯優勝の舞台ウラ〉
posted2023/08/09 17:35
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
AFP/JIJI PRESS
<前編(#1)のあらすじ>
グループステージを連勝して決勝トーナメント進出を決めていた日本だったが、第3戦イングランド戦で前線の守備が機能せず0-2の完敗を喫した。守備と攻撃のバランスをどう取るのか――。2トップである永里と安藤はそれぞれの中での改善策を考えながら、準々決勝ドイツ戦に臨んだ。
そのドイツ戦、安藤は体を張ってボールを収めつつ、周囲に展開するなどの貢献で佐々木則夫監督から「MVP級」との賛辞を得た。その一方で永里はハーフタイムでの交代を命じられていた……。
◇ ◇ ◇
問題の本質については、佐々木監督が明言している。
「永里は攻撃に対する思いが強く、守備への切り替えが少し遅い」
結局、何もできないまま、永里の45分はあっという間に過ぎていった。永里のいない後半もドイツの猛攻を受けた日本は、一度もゴールを割らせることなく90分を終えた。
宮間は傷心のエースを気遣い、永里は助言をしていた
延長戦直前、ピッチ上でストレッチをしていた宮間のもとに、永里が近づく。宮間は、永里の頭を小突く仕草をして、声をかけた。
「ああいうプレーしてたら、そりゃ交代させられるよ」
でも、宮間は怒ってはいなかった。
「てか、なんで、この時間にピッチにいないんだよー」
傷心のエースを気遣っていたのだ。
延長後半に入り、途中出場のFW丸山桂里奈が速攻から決勝点を奪った。ラストパスを出したのはMF澤穂希だったが、丸山は試合後に宮間からのアドバイスについて言及していた。
「(宮間からは)速攻からサイドのスペースに走るように言われていたんです。だから前にいったとき、うまくスペースにもらえるようにというのは意識してやってました」
そのアドバイスは、元は永里が宮間に送ったものだった。ハーフタイムの出来事を永里が振り返る。
「『どこかで速攻をしかけたほうがいいよ』って伝えました。相手DFとマッチアップしている中で感じたんです。結局、速攻から決まりましたよね」
この日は安藤の29回目の誕生日だった。試合終了の笛がなると、チームメイトが安藤に水をかけていく。時刻は日付が変わる少し前。ずいぶん遅い誕生祝いだった。
永里は試合終了の笛をベンチで聞いた。そして、頭を抱え、涙を流していた。
川澄との2トップになった安藤が感じていたこと
続く準決勝スウェーデン戦で、これまで不動だったスターティングメンバーに初めて手が加えられた。永里に代わり川澄奈穂美が2トップの一角に入り、安藤と川澄のコンビが誕生。「ぶっつけ本番」に近い。2トップの役割も変わった。それまで永里が務めていた役割を安藤が、安藤が務めていた役割を川澄が担うことになった。
安藤には以前から感じていたことがあった。