思い出深いバス道中の“説教”

　2年秋、エースとして秋季北信越大会で大活躍し、チームを優勝に導いた。その後の明治神宮大会も連勝し、高松商と決勝を戦った。山﨑が先発して7回まで無失点。3点をリードし、優勝が間近に迫っていた。東の記憶は今も鮮明だ。

「そこからバントばかりされてリズムがおかしくなって、またバントされて打たれました。山﨑はやっと、土のグラウンドでのバント処理がうまくできるようになって、僕も『よし、これである程度できるな』と思っていた矢先でした。神宮は人工芝でしょう。バント処理の仕方が土とは変わってくる。普段使う、福井県の球場には人工芝はなかった。やったことがない。すぐに対応できるほど、器用じゃないんです」

今季はセットアッパー、抑えとしても活躍する　©︎Nanae Suzuki

　8回に5点を失い、9回も3失点。終わってみれば3―8の逆転負けを喫した。東京から敦賀にバスで帰った。その道中、東は山﨑を隣に座らせ、延々と諭した。

「説教したのはわざとですよね。できひんのは分かっていました。でも、できひんまま終わらせていてもいけない。エースの自覚を持ってもらわないといけないですから」

「全部、一番になれ」

　山﨑の心も鍛えた。東自身、同校に在学中、東出輝裕（広島二軍コーチ）と同期で春夏3度、甲子園に出場し、強豪校の4番を打った球児だった。11年から監督に就き、勝つことの厳しさを分かっている。だから、優しくて、のんびりしている山﨑に物足りなさを感じ、口癖のように言ってきた。

「一番でグラウンドに上がって、一番で走って、一番に掃除をして。全部、一番になれ。全部、一番になる練習をせえよ」

　神宮球場の人工芝に悪戦苦闘してから、背番号1の目の色が変わった。守備練習を重ね、連日の四股踏みなどで下半身を鍛えた。いつしか、太い幹になっていた。

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