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大阪桐蔭を“完全に封じた”履正社…なぜ? 前田悠伍と福田幸之介のわずかな違い「“準決勝は1球も投げず”は共通」「激変する投手起用トレンド」 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/08/04 06:00

大阪桐蔭を“完全に封じた”履正社…なぜ? 前田悠伍と福田幸之介のわずかな違い「“準決勝は1球も投げず”は共通」「激変する投手起用トレンド」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

大阪桐蔭のエースで主将・前田悠伍(写真は今年のセンバツ)

「投げなさすぎ」も防げるか?

 履正社の多田監督も大阪大会と甲子園での戦い方をこう語る。

「実は当初、準々決勝で福田は1イニング程度の登板にしようかと考えていたんです。しかし、ピッチングコーチの方から先発で投げておいた方がいいと進言があり、先発にすることにしました。それが良かったのかもしれません。今日(決勝)の福田のピッチングはコントロールも安定してセンバツや春の大阪大会と比べると 本当に安定して投げてくれてたんで、(体が)良い状態だったのかなと思います。甲子園では増田と福田のどちらにするか先発は考えますけど、今大会のように、ベストな状態でピッチャーを投げさせていけるようにしていきたいなと思います」

 準決勝は投げずに決勝で登板した履正社の福田と大阪桐蔭の前田悠伍。2人の差は「準々決勝」にあったのかもしれない。前田がこの夏登板したのは、コールド勝ちした4回戦の東海大大阪仰星戦のみ。登板過多を防ぐと同時に、いかに実戦感覚を保つか。もちろん、結果論にはなるが、結果を隔てた一つのケースとして、今年の大阪大会は大いに参考になるだろう。

実践するとわかる…大会と投手起用の「難しさ」

 この投手マネジメントだが、実際に考えてみるとじつに奥深く、多くの学びを得られる。というのも、筆者が運営するオンラインサロンで、「投手マネジメント」大会を実施した。内容は、ある社会人チームが4日間の大会に臨むと仮定して、投手の起用法を考えるというもの。投手はプロ野球選手を想定し、大谷や藤浪晋太郎(オリオールズ)、高橋宏斗(中日)など、10人ほどの起用法を考えたのだ。

 ある中学野球の指導者はローテーションを作成。エースが4試合とも登板するも、過多にならないように役割を明確に設けた。かたや関東地区の公立校の指導者は、エースを軸としてローテーションを組みつつ、エースがまったく登板しない試合を設けた。大会の山場を見すえて、大会終盤の試合に備える起用法を考えた。そして3つ目の例は、1試合目でほぼすべての投手を起用するというもの。投手陣を大会に慣れさせた上で、エース級は短いイニングの登板にとどめた。勝負どころの大会終盤で、長いイニングを投げるというマネジメントだった。この例からもわかるとおり、その人の経験や立場によってさまざまな起用法が挙がる。今後の指導者は、選択肢を増やすためにより多くのマネジメントを知ることが大切だろう。 

 投手マネジメントはこれからも進化していくように思う。大会を勝つために、複数の投手を育成し、彼らをどう起用するか――。

 球数制限やタイブレークに反対していた時期のことを思えば、野球界は確実にいい方向に向かっている。

 激闘の大阪大会を取材観戦し、そんな気にさせられたものだった。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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