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朝倉未来の衝撃タップアウト負けは「ただただケラモフが強すぎた」…“地味な選手”が大舞台で示した「ハリトーノフ級の危険な闘争本能」とは 

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布施鋼治

布施鋼治Koji Fuse

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photograph byRIZIN FF Susumu Nagao

posted2023/08/05 17:02

朝倉未来の衝撃タップアウト負けは「ただただケラモフが強すぎた」…“地味な選手”が大舞台で示した「ハリトーノフ級の危険な闘争本能」とは<Number Web> photograph by RIZIN FF Susumu Nagao

一方的な展開で朝倉未来からタップを奪い、RIZINフェザー級王座のベルトを巻いたヴガール・ケラモフ。母国アゼルバイジャンにビッグニュースを届けた

「あの凄惨な試合」を思い出したケラモフの猛攻

 しかし決戦当日の7月30日、ふたりの立場は完全に逆転していた。リングに現れたケラモフは公開記者会見のときとはまるで別人。直前には「全ての面で私が勝っている」と豪語していたが、その言葉に偽りはなかった。彼はまるで猛獣のようなオーラを発していた。

 試合開始早々、獲物を追い詰めるかのように強いプレッシャーをかけ、朝倉をロープ際まで追いやる。朝倉からマウントポジションをとり、相手の頭を引き上げたうえでパウンドやヒジを落とす姿は、かつて“オランダの大巨人”セーム・シュルトに冷酷なパウンドを打ち下ろして戦闘不能に追い込んだロシア空挺団出身のセルゲイ・ハリトーノフのそれと重なった。ハリトーノフ同様、このときのケラモフからはレッドゾーンを超えた闘争本能を感じた。

アゼルバイジャンの並々ならぬスポーツ熱とは

 アゼルバイジャンはイランやロシアと国境を接した、カスピ海西岸に位置する国家だ。国民のおよそ95%はイラスム教を信仰していると言われているが、東ヨーロッパと西アジアの交差点に位置する地域のため、独自の文化を形成している。

 建国は1991年と新しく、国威発揚のため国をあげてスポーツの発展に力を注いでいる。2012年のロンドン五輪のときには、金メダルを獲得した選手に国から総額100万ドル(当時のレートで約8000万円!)もの報奨金が支払われると報じられ話題になった。2016年のリオデジャネイロ五輪でも、アゼルバイジャンはメダリストに対してシンガポール、インドネシアに次ぐ高額の報奨金を支給したという報告もある。

 オリンピックでのメダル獲得のため、アゼルバイジャンに国籍を変更する選手も多い。2016年のリオ五輪決勝で登坂絵莉と対戦し、2021年の東京五輪準決勝では須崎優衣と対戦した女子レスリングのマリヤ・スタドニクは、ウクライナからアゼルバイジャンに国籍を変更したアスリートとして有名だ。

 オリンピック競技以外のスポーツにも、アゼルバイジャン政府は熱い視線を注ぐ。格闘技もその例に漏れず、ケラモフの盟友トフィック・ムサエフが2019年のRIZINライト級GPで優勝を果たしたときには、アゼルバイジャン政府の要人が会場まで応援に訪れていた。

【次ページ】 「ただただケラモフが強すぎた」

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