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「八百長してやったのか?」とまで言われて…伝説の“貴乃花vs武蔵丸”「感動した!」の後、敗者・武蔵丸は苦しんだ「もう相撲をやめよう」

posted2023/06/29 11:02

 
「八百長してやったのか?」とまで言われて…伝説の“貴乃花vs武蔵丸”「感動した!」の後、敗者・武蔵丸は苦しんだ「もう相撲をやめよう」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

2001年夏場所の千秋楽、伝説の「貴乃花vs武蔵丸」

text by

佐藤祥子

佐藤祥子Shoko Sato

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JIJI PRESS

「貴乃花vs武蔵丸」、2001年夏場所の千秋楽。力士生命が危ぶまれるほどの大ケガをおして、強い精神力で土俵に上がった貴乃花。困惑する武蔵丸は本来の力が出せず、心に傷を負う。本人たちが明かした、“大相撲史に残る一番”の舞台ウラとは?【全2回の2回目/#1へ】(初出:Number PLUS/2017年3月8日発売)

◆◆◆

「あ、貴乃花、ケガしてるんだ…」

<いよいよ優勝決定戦が始まる。その直前、貴乃花の右膝は奇跡的にうまくはまった――。>

 一方の武蔵丸は、土俵上での貴乃花の一挙手一投足に、闘志が萎えてゆく。

「いつもなら『よし! やってやろう!』」と燃えるのに、『あ、貴乃花、ケガしてるんだ……』と、そればかりが気になる。どうしても、その気持ちが先に出ちゃった。だから、いつもの力が出なかった。仕切っていて、『あれ?』と思っているうちに思い切り突っ込んで来られて、ちょっと焦ってしまったんです。『仕切り直しかな』と思ったら、もうすでに遅かった。気がついた時には投げられていた――という感じだった」

 この言葉の通り、決定戦は貴乃花の立ち合いだった。貴乃花の気迫に吸い込まれるように、武蔵丸が立つ。立ち合いで正面から当たったあと、右のど輪で押す貴乃花。迎え撃つ武蔵丸も右から突いて押し返す。しかし、これで体が開いてしまった武蔵丸の隙を逃さなかった貴乃花は、すかさず下から得意の右を差して左上手を取り、寄り立てた。かたや左上手を取れない武蔵丸。貴乃花は一気に勝負に出、上手投げで219kgの巨体を土俵上に転がした。

 鬼気迫る執念の一番だった。

 常日頃から、「負けた相手のことを考えて、軽はずみに喜びを表すような態度はとるな」と厳しく言い渡し“貴乃花イズム”を叩き込んでいた付け人たちが、この時ばかりは花道の奥で飛び上がり、抱き合って喜んでいた。阿修羅のようなあの一瞬の表情は、「苦労をかけた付け人たちに送ったものだった」と、後日、貴乃花はその著書で明かしている。

「八百長してやったのか?」の声まで

 敗れた武蔵丸は、この一戦から「もう相撲をやめよう」と思い詰める。

【次ページ】 「八百長してやったのか?」の声まで

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