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多くの名選手が味わった「フジオカの壁」…47歳でついに“卒業”を決めたレジェンド・藤岡奈穂子が思い描く「女子ボクシングの未来」とは 

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渋谷淳

渋谷淳Jun Shibuya

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photograph byHiroaki Yamaguchi/AFLO

posted2023/06/03 17:02

多くの名選手が味わった「フジオカの壁」…47歳でついに“卒業”を決めたレジェンド・藤岡奈穂子が思い描く「女子ボクシングの未来」とは<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi/AFLO

長きにわたって日本女子ボクシング界のトップランナーとして活躍した藤岡奈穂子。写真は2018年9月のイルマ・サンチェス戦

多くの名選手が味わった「フジオカの壁」

 ソフトボールの実業団選手だった藤岡が「自分の力だけで勝ち負けの決まる個人競技」に魅力を感じてボクシングを始めたのが1999年のこと。「3年くらいやって辞めると思った」と言うものの、黎明期の女子ボクシングは藤岡を必要としていたのだろう。日本ボクシング連盟が2002年に女子を公認すると、元ソフトボール選手は短い期間でアマのトップに登り詰めた。

 プロを統括する日本ボクシングコミッション(JBC)が女子ボクシングを認めたのが08年のこと。藤岡は09年にプロ転向を決意し、34歳でプロデビューを果たした。このあたりの経緯を本人は「ちょうどプロができて(JBCに公認されて)その流れにうまく乗れた。たぶん10年早くても、遅くてもこうはならなかったと思う」と振り返る。

 その後、プロでの数々の栄光はファンの知るところだが、ここですべて紹介できないので、一つだけ強調しておきたい。それは藤岡が対戦してきた選手のレベルの高さ、数多くの軽量級トップ選手と拳を交えてきたというキャリアである。

 初めて世界王座を獲得したときのWBCミニマム級王者、アナベル・オルティスは藤岡に王座を奪われたあと、WBA王座に就いて12度の防衛を成功させる名王者となった。15年3月、アウェーのメキシコに乗り込み、スター選手のマリアナ“バービー”フアレスから白星を挙げたことも特筆に値するだろう。

 17年12月、5階級制覇達成となったWBO・L・フライ級王座決定戦で勝利したヨカスタ・バジェ(コスタリカ)は現在のIBF&WBOミニマム級統一王者である。バジェは藤岡が最後に敗れたエスパーザとともにいまやGBPの看板女子選手になっている。多くの選手が藤岡という厚い壁に阻まれ、あるいは乗り越え、大きく成長していったのだ。

 国内外で多くの強豪選手と対戦してきた藤岡に「ベストパフォーマンスは?」と問うと、「プロで14年やってだいぶボクシングが変わったから分からないですね」との答えが返ってきた。

 キャリア中盤までの藤岡はよく動き、鋭い踏み込みとパワフルなパンチが目を引くボクサーだった。女子選手に「迫力がある」というフレーズを使うことは少ないのだが、藤岡には時として使わせてもらった(真道ゴーにダウン寸前まで追い込まれたあとの巻き返しは迫力満点だった)。そんな藤岡もキャリアを重ねるうちに無駄な動きがそぎ落とされ、うまさも身につけたチャンピオンになった。だからこそ47歳という年齢まで活躍できたのだろう。

【次ページ】 レジェンドが思いを馳せる「女子ボクシングの未来」

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