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「何かやらせてください」出場停止中、朝乃山はちゃんこの下準備で包丁を握った…元大関は“失われた2年”を取り戻すことができるのか 

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荒井太郎

荒井太郎Taro Arai

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photograph byKiichi Matsumoto

posted2023/05/23 11:02

「何かやらせてください」出場停止中、朝乃山はちゃんこの下準備で包丁を握った…元大関は“失われた2年”を取り戻すことができるのか<Number Web> photograph by Kiichi Matsumoto

次期横綱候補と謳われた2020年当時の朝乃山。不祥事による出場停止で三段目まで番付を下げたが、2年ぶりに復帰した幕内で勝ち越しを決めた

若い衆となり、ちゃんこの下準備で野菜を切った

 連続休場により番付は大関から急降下。やがて関取の座も明け渡し、稽古場では白廻しから幕下以下が締める黒廻しになった。待遇は給料の出ない若い衆となり、居ても立っても居られず「自分にも何かやらせてください」とちゃんこの下準備では包丁を握り、野菜も切った。元大関のプライドはとうに捨てていた。

 稽古は所属する高砂部屋で黙々と積んでいたが、復帰が近づくにつれ太ももの肉離れやぎっくり腰に見舞われるなど、体に変調をきたしたという。再び上がる本場所の土俵を前にプレッシャーを感じていたのかもしれない。

 1年余りのブランクを経た2022年名古屋場所、7戦全勝で三段目優勝を果たしたときは「いろんなプレッシャーがあった」と強張った表情の中にも安堵感を垣間見せた。翌場所は幕下15枚目となり、全勝なら関取復帰となるところだったが6勝1敗に終わり、続く九州場所も6勝で2023年初場所、再十両となった。

 十両復帰場所は14勝1敗のハイレベルな優勝を成し遂げるも、翌場所は十両に留め置かれ13勝。土俵復帰から5場所を要し、この夏場所でようやく幕内に帰ってきた。

 先場所後には3年半ぶりに巡業にも参加。豊昇龍や霧馬山ら大関を狙う面々とも精力的に稽古を行い「(幕内は)甘くはない。しっかり一番に集中し、自分の相撲を取り切って、しっかり結果を残していきたい」と意欲的に語る一方、「不祥事があったので、ヘラヘラできない。(力士から)喋りかけられたら喋るけど、あまり自分からは口を出さないようにしている」といまだ胸の内にある後ろめたさと、多くの関取衆に囲まれた中で自分はどう振舞うべきなのか、若干の戸惑いもあるようだった。

【次ページ】 “失われた2年”を補って余りあるほどの活躍を

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