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[89歳記者の引退]現場取材を貫いて

posted2023/04/29 09:02

 
[89歳記者の引退]現場取材を貫いて<Number Web> photograph by Kensuke Okano

text by

小西慶三

小西慶三Kezo Konishi

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Kensuke Okano

野球の取材現場では最年長、89歳の記者が引退を決めた。鶴岡一人、V9巨人、松井秀喜からピッチクロックまで――。長きにわたって記者を駆り立てたのは、意外な動機だった。

 WBC優勝の余韻がまだ残る4月半ば、あるベテランスポーツ記者が静かにペンを()いた。

 日本経済新聞運動面の名物コラム「選球眼」を長らく担当、戦後の野球を見つめ続けた浜田昭八さん(89歳)。今年2月に自宅で転んで背中を痛め、自力で現場に足を運ぶのが難しくなったため、ライター業引退を決めたという。読者に別れを告げた4月の寄稿で、浜田さんは「100歳まで続けたいと思った」と書く。後日、理由を尋ねると「半分冗談で、だったけどね」と飄飄とした返事があった。

「2000年、66歳で東京から大阪に戻ってくる時の送別会で『88歳の8月8日に最後の原稿を書いてサヨナラします』と言った。ところが88歳を超えてしまった。それで次の目標、『100歳まで』とね」

 ただ、浜田さんから「次の目標」に届かなかった未練は伝わってこない。

「自分でもこの歳までとは思ってなかったわ」

 記者席で顔を合わせる最も歳が近い同業者でさえ、せいぜい60代。監督、選手となると孫か曾孫の世代だ。口にこそ出さないが誰よりも長く、自分の好きなことをやり切った、との思いは強いはずだ。

 名前の由来は、昭和8年生まれだから。1956年にデイリースポーツ入社、その4年後に日本経済新聞に移籍した。計67年間、野球を中心に多くの名勝負、球界の分岐点に立ち会い、今はもう資料や言い伝えでしか接することができない鶴岡一人、三原脩、水原茂といったレジェンド監督たちも取材した。上田利治、西本幸雄ら名指揮官の苦楽を描いた『監督たちの戦い』、西武、ダイエー黄金時代の礎を築いた名物フロントマンを追った『球界地図を変えた男・根本陸夫』(共著・田坂貢二)はともにロングセラーとなっている。

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