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「ミルコをKOし、ヒョードルをぶん投げた男」ケビン・ランデルマンを覚えているか? “伝説のバックドロップ”を撮ったカメラマンの追憶 

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長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

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photograph bySusumu Nagao

posted2023/04/22 17:00

「ミルコをKOし、ヒョードルをぶん投げた男」ケビン・ランデルマンを覚えているか? “伝説のバックドロップ”を撮ったカメラマンの追憶<Number Web> photograph by Susumu Nagao

自慢の怪力でエメリヤーエンコ・ヒョードルを担ぎ上げるケビン・ランデルマン。多くのファンに愛された好漢は、2016年に44歳の若さでこの世を去った

 1ラウンド開始から100秒ほどが過ぎたときだった。ランデルマンの強烈な左フックが、ミルコの顎を打ち抜く。ダウンしたミルコにグラウンドからパンチを連打し、最後はハンマーのようなパウンドを振り下ろした。完全に意識を飛ばされ、微動だにしないミルコ。衝撃度ではPRIDE史上最大といっても過言ではない、まさに世紀のアップセットだった。

 そして試合後のランデルマンのマイクアピールもまた、史上最高といっていいほどに秀逸だった。

「この試合に臨む前、俺が怖がっていたと思うだろう? もちろん怖かったよ。俺だってみんなと同じ1人の人間だから。だけど、YOU!  YOU!  YOU! お前らのために俺は闘ってるんだよ! お前らのためなら地獄を見てもいい。その地獄を潜り抜けて天国を見ると決めたんだ。また、お前らのために俺は闘うよ。愛してるぜ、また会おう。アリガトウ」

ヒョードル戦前のジャンプはいつも以上に高かった

 熱すぎるメッセージでファンの心をわしづかみにしたランデルマンの2回戦の相手は、“人類最強の男”と呼ばれた全盛期のエメリヤーエンコ・ヒョードルだった。ヒョードルは1回戦でランデルマンの師匠コールマンを一蹴している。“師匠の敵討ち”というテーマがあるとはいえ、このマッチメイクには実力差があると誰もが感じていた。しかしその一方で、ミルコ戦のようなビッグサプライズが起こりうるのでは、という期待感も微かにあった。

 2004年6月20日、さいたまスーパーアリーナ。この日は梅雨独特のどんよりとした曇り空で、30度を超す蒸し暑さだった。ランデルマンはメインイベントに登場した。試合前のジャンプがいつもよりも高かったのは、気合が入っていたからなのか、それとも単に私がそう感じただけなのか。今となっては知る由もない。ただ、リング上のランデルマンを見て、何かが起きそうな予感がしたことだけは覚えている。とはいえ、ヒョードルが敗れることはないだろうが……。

【次ページ】 “人類最強の男”がリングに垂直落下した瞬間

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