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「なめてんのか、お前!」古橋亨梧が興国高監督に怒鳴られた日…欧州で大ブレーク、スピードスターの覚醒秘話「あいつは孫悟空みたいなんです」 

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松本宣昭

松本宣昭Yoshiaki Matsumoto

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posted2023/04/09 11:06

「なめてんのか、お前!」古橋亨梧が興国高監督に怒鳴られた日…欧州で大ブレーク、スピードスターの覚醒秘話「あいつは孫悟空みたいなんです」<Number Web> photograph by Getty Images

スコットランドリーグで日本選手初の得点王が期待される古橋亨梧。今の活躍に至るまでの歩みは決して順調ではなかった

 2012年4月、興国はインターハイ大阪府予選に臨んだ。古橋をはじめ、和田達也(→松本山雅)、山本祥輝(→カターレ富山)、1学年下の北谷史孝(→横浜F・マリノス)、田代容輔(→ヴィッセル神戸)と、後のJリーガー5人を擁する歴代最強メンバーで、順調に4チームによる決勝リーグに進んだ。ところが、決勝リーグでは1勝もできず。上位2校に与えられる全国大会出場権を逃した。古橋も、決勝リーグでは全くゴールに絡むことができなかった。

 大会から数日後、古橋が内野のもとを訪ねてきた。中央大か、阪南大か。進路を決める話し合いの場になるはずだった。ところが冴えない顔をした古橋が、こう言い出した。

内野は激怒した、古橋は泣いていた

「インターハイの予選でも全然活躍できなかったし、僕みたいな選手がスポーツ推薦で大学に行くのはどうかと思うんです。だから、勉強で大学に行きます」

 その言葉を聞いて、内野の堪忍袋の緒が切れた。古橋の背後の壁に手を叩きつけ、顔を数センチのところまで近づけて言った。

「なめてんのか、お前!」

 内野が、11年前の“壁ドン”の真意を明かす。

「亨梧を自分たちの大学に迎え入れるために、たくさんの大人が忙しいスケジュールを割いて動いていました。それなのにあいつは、ちょっと結果が出なかっただけで『僕は全然ダメや』と落ち込む。良くも悪くも、ピュアなんです。まだ子供だったんです。1年生の頃から指摘し続けてきたメンタルの弱さを、3年生になってもまた出した。だから、『大学の人たちは、お前の能力を評価しているからこそ声をかけてくれてるんやろ? そんなヘタレな態度なら“大学の人たちは、みんな見る目がない”って言ってんのと同じや! よくそんな失礼なことが言えるな!』って、“鬼詰め”しました」

 内野の数センチ先で、古橋は泣いていた。面談を終えて、内野は古橋の母に電話をした。古橋の発言に対して、猛烈に説教したことを包み隠さず話した。すると、携帯電話のむこうからこう言われた。

「先生、本当にすいません。あの子、ボコボコにしてください」

 内野は懐かしそうに笑う。

「めっちゃ素敵なご両親なんですよね。あの一件以来、亨梧は完全にスイッチが入りました。自分から仕掛けるプレーが増えて、5番手だった序列も、ほかの4人と遜色ない評価になりました。練習試合をしたJクラブの関係者からも『あのウイングの選手、すごいですね。進路はどこですか?』って、問い合わせが来ることが増えましたから。怒られないとスーパーサイヤ人にならない。困ったもんですよ(笑)」

 新たな春を迎え、一皮むけた孫悟空は中央大学へと進んだ。

「大学生がズバズバ抜かれてね」印象的だったドリブル

 中央大学サッカー部監督だった佐藤健(現チームダイレクター)は、初めて古橋のプレーを見た日のことを鮮明に覚えている。

【次ページ】 亨梧には並外れた心肺機能がある

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