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山田哲人らOBの履正社・初戦敗退も甲子園で見せた“新スタイル”「根拠のある走塁」の意識改革とは〈センバツ強豪・夏への収穫〉

posted2023/04/03 11:02

 
山田哲人らOBの履正社・初戦敗退も甲子園で見せた“新スタイル”「根拠のある走塁」の意識改革とは〈センバツ強豪・夏への収穫〉<Number Web> photograph by Kyodo News

センバツ初戦敗退となった履正社だが、新たな機運を感じさせる戦いを見せた

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間淳

間淳Jun Aida

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2023年のセンバツは山梨学院の県勢初優勝で幕を閉じた。その中で甲子園優勝経験のある名門校も“夏に繋がる”様々な試みにトライしていた。その戦いぶりを一気に振り返る(全4回)

 最後は、この試合を象徴するような打球だった。9回2アウト一、二塁。履正社の4番・坂根葉矢斗選手の打球は高々と上がり、相手サードのグラブに収まった。3年ぶり10回目のセンバツは高知に2-3で逆転負け。大阪府の履正社が初戦で姿を消した。

終盤に逃げ切り体制に入りたかったが

 主導権をがっちりとは掴めないものの、履正社は高知に流れを渡さず試合を進めていた。公式戦初先発となった福田幸之介投手は7回までノーヒット投球。味方のエラーで出塁したランナーを自身のワイルドピッチで生還させる1点に抑えていた。8回表には打線が1点を勝ち越し、逃げ切り体勢に入りたいところだった。福田投手が回想する。

「周りからはノーヒットと言われていましたが、いけるところまで抑えようと思っていただけなので気にしていませんでした。勝ち越した直後のイニングは先頭打者が大事だと分かっていましたが、出塁を許してしまいました」

 勝利を意識したのか、疲労や緊張で手元にずれが生じたのか、高知の先頭打者、代打の井上聡太選手に初ヒットを許す。送りバントを決められて1アウト二塁とされ、代打の中嶋奏輔投手には、この試合6つ目のフォアボール。ランナーを2人残して、マウンドを2番手の増田壮投手に譲った。増田投手は2アウトまでこぎつけたが、高知の3番・高塚涼丞選手に2点タイムリーヒットを浴び、試合をひっくり返された。

山田哲人らOBの豪快な打力のイメージがある一方で

 履正社と言えば、豪快な打力をイメージする。

 OBにはWBCで日本の優勝に貢献したヤクルトの山田哲人選手、ホームランのタイトルを獲得した経験もあるオリックスのT-岡田選手や若くして主軸を任されているロッテの安田尚憲選手らがいる。今年のチームも中軸には長打力のある打者が並ぶが、これまでのスタイルとは違う。この試合、8本のヒットは全て単打だった。

 昨春からチームを指揮する多田晃監督が重視してきたのが「走塁」。相手のミスや隙を逃さずに次の塁を陥れ、選手にはノーサインでも盗塁させる。走塁の意識を変えるためには常識にも捉われない。

 指揮官に就任して3カ月ほどが経った昨年6月、多田監督はある人物に“臨時コーチ”を依頼した。滋賀県にある少年野球チーム「多賀少年野球クラブ」の辻正人監督。チームを3度の日本一に導いた少年野球界で最も有名な指導者だ。辻監督のチーム作りの特徴は、選手自らが考える「脳=ノーサイン野球」。選手に一切サインを出さないのだ。

【次ページ】 リスクを冒してでも二塁に到達するための根拠

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