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近鉄の伝説的バッターはなぜ“大金を貸し続けた”のか? 「300万貸したヤツがベンチの真上に…」豪快エピソードに隠された“栗橋茂の真実” 

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岡野誠

岡野誠Makoto Okano

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posted2023/02/14 11:01

近鉄の伝説的バッターはなぜ“大金を貸し続けた”のか? 「300万貸したヤツがベンチの真上に…」豪快エピソードに隠された“栗橋茂の真実”<Number Web> photograph by NumberWeb

近鉄「伝説の4番」栗橋茂さん。現在はスナック『しゃむすん』でマスターを務める

「プロで稼ぐようになってから、知り合いが俺の家へ来て、『金がない』と泣きついてきた。しょうがないから、通帳渡したの。次の日、銀行から『本当にいいんですか?』と電話がきたよ。300万くらいだったな。それから数年経って、日生球場でのオープン戦で『栗橋~!』って呼んでるヤツがいた。お客さんもほとんどいないから、よく声が通るんだよ。どっかで見たことあるな……と思ったら、そいつだった。もう野球どころじゃない。『てめえ、ふざけんな!』って叫んだよ」

 なぜ、大金を貸してしまったのか。

「うーん、返ってくると思ってたのかな。返ってきたこと一度もないけど。人に貸した総額? 3500万円くらいかな」

 翌年、仰木彬ヘッドコーチの意向(※1)で2番を打てる新井宏昌を南海から獲得。新井は『2番・センター』で全試合出場を果たす。小技も効く上に一発長打もあるバッティングで岡本監督の理想を体現し、1987年には3割6分6厘で首位打者を獲得した。栗橋はクリーンアップに戻ったが、故障もあって成績は徐々に下降していった。

 11年ぶりの1ケタ本塁打に終わった1987年オフ、三原脩監督時代から18年間もコーチを務めていた仰木が監督に就任する。直後の秋季練習で、一触即発の事件が勃発する。

「仰木さんがレフト線にノックして、カットプレーでバックホームする練習だったな。俺がクッションボールを取ろうとしたら、当たりどころが悪くてフェンス沿いに這っていった。それを追い掛けていたら、ハンドマイクで『コラァ! 年寄り!』みたいな言い方をされた。『なに? コラァ! おまえがやれ!』ってブチ切れたよ。間に挟まれたサードの金村(義明)は戸惑ってた。監督が(ベテランの)俺を締めれば、みんな言うことを聞くでしょ。だから、一発かましたんじゃない? その後、仰木さんから別に何も言われなかったよ」

「断った」阪神へのトレード案

 外野の競争は激化していた。前年130試合制で最多の184安打を放った新井、巨人から移籍3年目の淡口憲治というベテラン勢に加え、ショートからコンバートされた3年連続2ケタ本塁打の村上隆行、前年21本塁打を放った鈴木貴久など若手の成長も著しかった。

「あの頃、仰木さんに『阪神からトレードの話がある』と言われた。今思えば行っとけば良かったけど、断った。一度入った以上、近鉄で終わりたかったからさ。古くて、つまらない考え方だよな」

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