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「空力の鬼才」エイドリアン・ニューウェイが、今なお製図板と鉛筆にこだわる理由とは《稀代の天才デザイナー》 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool

posted2023/01/20 11:00

「空力の鬼才」エイドリアン・ニューウェイが、今なお製図板と鉛筆にこだわる理由とは《稀代の天才デザイナー》<Number Web> photograph by Getty Images / Red Bull Content Pool

1958年生まれ、64歳のニューウェイ。F1の現場を離れた時期もあったが、レッドブルとの関係はすでに17年にも及ぶ

 それでもニューウェイはコンピュータだけに頼ることはせず、いまも製図板に鉛筆でデッサンするというスタイルを貫く。コンピュータや風洞実験で開発の確認をすることはできるが、ゼロから何かを生み出すことはできない。F1はたびたびレギュレーションが変更され、デザイナーたちはそのたびにマシンを新たに開発しなければならない。そのとき重要となるのが、変更されたレギュレーションをいかに的確に解釈し、どんな方向でマシン開発を進めるべきかという判断だ。それにはCFDや風洞実験ではなく、デザイナーの発想力と知恵が鍵となる。

 マクラーレンに移籍したニューウェイが1998年に手がけたMP4-13は、まさにそれを体現したマシンだった。この年のF1は、安全性の観点からコーナーリングスピードを落とす目的でマシンの幅を狭くし、溝付きタイヤを投入するという大きなレギュレーション変更を行った。その難題を克服したのが、荷重移動を最小限に抑えるために車体の重心を大きく下げて開発されたMP4-13だった。ミカ・ハッキネンがこのマシンで8勝を挙げて初のチャンピオンに輝くと、ニューウェイは空力の天才だけでなく、チャンピオンメーカーとも呼ばれるようになった。

鬼才だけの「空気の流れを読む力」

 F1は2009年にも大規模なレギュレーション変更を実施したが、この変更のときもニューウェイの手腕は確かだった。マクラーレンからレッドブルに移籍していたニューウェイは満を持してRB5をデビューさせた。この年はブラウンGPとのタイトル争いに惜しくも涙を呑んだが、そのコンセプトを継承したマシンは、2010年にセバスチャン・ベッテルとレッドブルに初のタイトルをもたらした。レッドブルのチーム代表を務めるクリスチャン・ホーナーはこう言ってニューウェイを讃える。

「彼には、コンピュータや風洞実験のデータには映し出されることがない、空気の流れを読む能力が備わっている」

 レッドブルとマックス・フェルスタッペンがF1史上最大のレギュレーション変更と言われた2022年にタイトルを独占したのは、偶然でも幸運でもなく、必然だった。ニィーウェイが送り出したマシンRB18は年間17勝を達成。過去に手がけたチャンピオンマシンのどれより高い勝率を誇る、最も成功したF1マシンとなった。

 F1には、こんな言葉がある。

「F1における競争はいかに最速のマシンをデザインするかだが、それができなかったチームは最速のマシンのデザインをいかに早くコピーするかの競争になる」

 2023年シーズンは、多くのチームがレッドブルのRB18をコピーしてくることだろう。しかし、F1で30年以上の経験を積んだニューウェイの千里眼は、いまやだれも見通すことができないほど鋭くなっている。これまで何台ものF1史に残る名車を作り上げてきた彼が、今年はどんな新車を登場させるのか。

 天才デザイナーが手がけるマシンを拝めることを、いまは感謝して待ちたい。

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