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16羽のガチョウから“わずか1球”…バドミントンのシャトルが高騰している“意外な理由”とは? 日本人が知らない、食用水鳥とスポーツの関係

posted2022/12/25 17:00

 
16羽のガチョウから“わずか1球”…バドミントンのシャトルが高騰している“意外な理由”とは? 日本人が知らない、食用水鳥とスポーツの関係<Number Web> photograph by Getty Images

バドミントンのシャトルには、ガチョウやアヒルなど、食用水鳥の羽根が使われている

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熊崎敬

熊崎敬Takashi Kumazaki

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『Sports Graphic Number』で好評連載中の「スポーツまるごとHOWマッチ」を特別に公開します! <初出:1061号(2022年10月20日発売)、肩書きなど全て当時>

 スマッシュの初速、世界最速記録はなんと493km/h! 球技最速のスピードで打ち込まれるバドミントンのシャトルは、ほぼすべて中国で生産されている。中国には北京ダックなど水鳥を食べる習慣があり、肉の加工過程で出た羽根がシャトルになるからだ。

 1928年、英国で創業した世界唯一のシャトル専門メーカー、RSLジャパンのクリエイティブマネジャー、神山祐介さんが語る。

「競技用シャトルはガチョウやアヒルの羽根で作られています。日本協会第1種検定球は、すべてガチョウ。アヒルとの差はほぼなくなりましたが、一般的にはガチョウのほうが軸が太く、羽根も肉厚とされています」

 シャトル1球に使用される羽根は16枚。ブレなく素直に飛び、耐久性にも優れるシャトルにするには、まっすぐな羽根を16枚そろえなければいけない。反り具合や重さ、太さなど異なる羽根が混じるときれいな円にならず、飛びにブレが出るからだ。ちなみに水鳥の体の右と左とでは反りなどが異なるため、双方の羽根が1球に混在することはない。

16羽のガチョウから作れるのは“わずか1球”

 こうなると膨大な数の羽根を確保し、それらを厳密に分類することが、質のいいシャトルを生産するためには欠かせない。世界唯一の専門メーカーならではの強みも、まさにこの過程にあるらしい。

「弊社は16羽のガチョウから、1球のシャトルを作っています。羽根の分類も他社は目視によって46種類に分類するようですが、弊社は目視に機械によるチェックが加わるので、4万5000種類に分類しています」

 他に類を見ない細かさで分類された羽根によるRSLシャトルは、羽根そのものの質がいいことに加えて、均質性が極めて高い。そんなRSLシャトルの中でも、世界中の中・上級者に長く愛されているのが日本協会第1種検定球でもあるNO.1ターニー(12球入りの筒1本で税込3960円)。他社からは5000円台の高級シャトルも出ているが、神山さんは「まったく遜色ない」と胸を張る。

 飛びの良さはもちろん、安くて丈夫なターニーは財布に優しいみんなの味方。だが近年、シャトルの価格は全般的に上がり続けているという。神山さんの表情に苦悩が浮かぶ。

「食生活の変化です。中国人が水鳥をあまり食べなくなってきたので、羽根の確保が難しくなっているのです」

 スポーツ用具の値段も、社会の変化と無縁ではいられないのだ。

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