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「あれ、松下さん?」バイト先に後輩のオズワルド伊藤俊介が来店…元相方のコンビがM-1決勝に進出した“2回戦落ち芸人”の後悔 

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松下慎平

松下慎平Shimpei Matsushita

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posted2022/12/18 11:00

「あれ、松下さん?」バイト先に後輩のオズワルド伊藤俊介が来店…元相方のコンビがM-1決勝に進出した“2回戦落ち芸人”の後悔<Number Web> photograph by AFLO

2021年のM-1グランプリで2位となったオズワルドのツッコミ・伊藤俊介。2022年は敗者復活戦からの逆転優勝を狙う

 私がなにか言わなければ。そう考えれば考えるほど、うまい言葉が思いつかない。面白くない先輩だと思われたくない。そんな思いとは裏腹に、「こんなとこでなにしてんの?」と当たり障りのない言葉が押し出されるように口からこぼれた。

「この辺のスタジオで収録だったんですよ」

 彼の手には衣装のスーツが握られている。汚いビニール1枚を隔てて、そこには残酷なまでの明と暗が存在していた。「へぇー」。声が上ずらないよう気を付けて言葉を返すのに精一杯で、会話が途切れてしまう。散々勝手にテンパった挙句、私の残念な口は脳からの信号を待たず勝手に動いた。

「M-1惜しかったな」

 口にしてすぐ後悔する。2021年のM-1グランプリ決勝、オズワルドはトップの点数でファーストラウンドを突破したものの、最終決戦で錦鯉さんに敗れ、惜しくも2位であった。一番悔しい気持ちであろうこのタイミングで、売れてもいない先輩――同年のM-1は2回戦落ちだった――に、不躾にこんなことを言われて気持ちがいいはずなんてない。

 しかし彼は照れくさそうに俯きながら、「はい」と笑って応えた。そんな彼の姿に私はなんとも言えない気持ちになり、会計を終え、店を出ようとする彼の背中に向かって「来年頑張れよ!」と声をかけた。「いや、あんたもな!」と笑いながら、全国2位のツッコミはクリスマスを前に色めく東京の夜の街に軽やかに消えていった。

 彼の背中を見送った全国何千位の芸人であろう私は、「いらんことを言ってしまった」という後悔と、先輩なのにコーヒーもタバコも奢らず、会計をさせてしまったことに後になって気づき、重い足取りでバイト先を後にした。

編集者の依頼「競馬とM-1を絡めたエッセイを…」

 それから約1年後の2022年11月上旬、ちょうどM-1の3回戦が終わった頃、NumberWeb編集のA氏からこう持ちかけられた。

「競馬とM-1を絡めたエッセイを書いてもらえませんか?」

 有馬記念とM-1決勝。1年の中でも競馬界とお笑い界がもっとも盛り上がる12月のタイミングに合わせて、“競馬芸人”の端くれである私が書いた記事をアップしたいのだという。本当にありがたい話だ。もちろん考える必要なんてない。私は返す刀で応える。

「絶対に嫌です」

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