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「ユヅルは憧れ。いつか会いたい」フィギュア“世界初”、ブラジルのトランスジェンダー選手14歳に聞いた“孤児院&両親がゲイカップル”の半生 

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沢田啓明

沢田啓明Hiroaki Sawada

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photograph byHiroaki Sawada

posted2022/12/07 11:02

「ユヅルは憧れ。いつか会いたい」フィギュア“世界初”、ブラジルのトランスジェンダー選手14歳に聞いた“孤児院&両親がゲイカップル”の半生<Number Web> photograph by Hiroaki Sawada

世界で初めてトランスジェンダー選手としてジュニアGPに出場したマリア・レイクダル。ブラジルで本人に話を聞いた

 このような状況はともかくとして、マリアはいかにしてフィギュアスケートの選手として上達を目指すのか。

 幸い、彼女はインラインスケートならいつでも練習できる環境にある。

 日本ではインラインスケートとフィギュアスケートは別物と考えられており、インラインをフィギュアの練習に活用する選手はほとんどいない。しかし、インラインとフィギュアの身体的な動きは良く似ているとされ、インラインをフィギュアの練習に有効利用しようという動きもあるようだ。

「今後、インラインの練習を積みながら、国内外で可能な限りアイスリンクで練習する機会を増やしたいと考えている」(グスタヴォ)

 ただし、そのためにはかなりの費用がかかる。両親は、国内外のスポンサーを探し、また一般からの募金を求めている。しかし、フィギュアスケートの愛好者がほとんどおらず、メディアと国民の関心も薄いブラジルで多額の資金を調達するのは容易ではないだろう。

困難の多くは現在も続いており、今後も完全になくなることはない

 これまでの14年の短い生涯で、マリアはすでに我々日本人には想像もできないような困難と苦難に遭遇し、それらと勇敢に闘い続けてきた。それでも彼女の口からそういった苦難に対して後ろ向きな言葉は出てこなかったし、あくまで未来を見据えていた。グスタヴォがマリアの将来についてこう語る。

「彼女は、複雑な生い立ち、トランスジェンダーであることに対する世間からの偏見、女性アスリートとして大会に出場するための障害、ブラジルの恵まれない練習環境など多くの困難に直面して苦しみながら、一つひとつ、懸命に乗り越えてきた。これらの困難の多くは現在も続いており、今後も完全になくなることはないだろう」

 彼女の小さくか細い身体がこれまで乗り越えてきた数々の障害を、そしてこれからさらに乗り越えようとしている障害の多さを想像して、胸が詰まる思いがした。

 それでも、マリア・レイクダルは静かに微笑みながら、自らが選んだ道を歩き続けようとしている。

 

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「身体が男の子でも、心は女の子」フィギュア“世界初”14歳のトランスジェンダー選手が語る壮絶な半生「女子トイレを使えない嫌がらせも」

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