「あいつはね、ちょっと変わってましたね、いやいや、もちろんいい意味で、ですよ」

　数日前、健大高崎高・青柳博文監督とお話しする機会があった。

　是沢捕手を三重の中学時代に発掘し、高校3年間、指導にあたった恩師である。

「全体練習でも一生懸命やってましたけど、個人練習になっても、1人でいつまでもロングティー打ってね。1人で打って、打ったボール、おそらく200球ぐらいあったと思いますけど、外野に行って1人で集めてるんですよ。すごいな……と思いましたね。なんでも、自分から出来て、1人でやってしまう。面倒なことも、一切無精しないで自分でやれるんです」

　法政でも、変わらなかったらしいですよ……リーグ戦では活躍できなくても、きっと自慢の卒業生なのだ。

　実は、前からずっと不思議に思っていたことがあった。

　4年前の春、同じ健大高崎高の捕手が、2人揃って法政大野球部に進んだ。これは珍しいことだ。

「レギュラーの大柿（廉太郎・180cm80kg・右投右打）はスポーツ推薦で、是沢のほうは、受験勉強で入ってますから」

　そうか……是沢捕手、健大高崎高でもレギュラーじゃなかったのか。

「頭のいい子でね。本気で受験勉強すれば、東大だって夢じゃないって先生もいたぐらいで。でも、どうしても、法政で野球やりたいって言って……そういう頭の良さとか、とことんやりきろうとする姿勢が、西武さんに評価してもらえたのかもしれませんね」

　是沢捕手より3年上の卒業生・柘植世那捕手もレギュラーマスクをうかがう西武ライオンズだ。かわいい教え子同士が生活を懸けて1つのポジションを争うことになっても、それでも青柳監督は嬉しそうだった。

「理由のない指名」はない

　ドラフトで「えっ、どうして？」という指名は、毎年いくつも例がある。

　中には、「頼まれ指名」というケースもあると聞く。事情があって、どうしてもプロに進ませたいと考える選手を、チームの関係者がプロ側にお願いをして、ドラフト指名してもらう。ただ、それにしても、それなりの実力を持った選手の場合に限られる。なぜなら、お願いした本人が「笑い者」になってしまうからだ。

　スタートは「頼まれ指名」でも、その後、懸命の努力で一軍選手として活躍した例を、私はいくつも知っている。

　外から見ているだけの者が不可解に思っても、「理由のない指名」は、ドラフトには一例もない。支配下1位から育成まで、すべての指名選手が相応の根拠を持ち、相応の手続きを経て、指名に至る。

　事象を活字にすることには、少なからぬ「責任」があるはずだ。私もあらためて肝に銘じ、自戒としたい。