Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER

アントニオ猪木の悲願“北朝鮮38万人興行”とは何だったのか? 現地を知る者たちの証言「あぁ、これが引退試合なのかな……」 

text by

長谷川晶一

長谷川晶一Shoichi Hasegawa

PROFILE

photograph byEssei Hara

posted2022/10/06 17:01

アントニオ猪木の悲願“北朝鮮38万人興行”とは何だったのか? 現地を知る者たちの証言「あぁ、これが引退試合なのかな……」<Number Web> photograph by Essei Hara

故金日成主席の肖像画も背景に見えるフレアーとの対戦中の1枚。写真については後編でカメラマンの原悦生氏がその詳細を明かしている

日本だったら絶対に沸く試合が沸かなかった

 長年にわたって新日本プロレスのリングアナウンサーを務めた田中秀和(現・田中ケロ)は言う。

「思ったほどメインの橋本・ノートン戦が沸かなかったですね。大男同士が身体を使ってバチバチやる試合。日本だったら絶対に沸く試合が沸かなかった。痛みがわかりやすいプロレスだったんですけれど……」

 初日終了後、猪木は「プロレスを知らない人たちを魅了するには、彼らはまだまだ役者不足だ」と酷評することになる。

打ち上げのレストランで猪木さんに突然誘われたんです

 こうして迎えた大会2日目。救世主となったのが、第2試合の「ブル中野対北斗晶」だった。

 ブル中野が参加するきっかけはWWFでサーキットをしていた頃、ニューヨークで猪木と一緒に食事をしたことだった。

「ニューヨークで猪木さんが在留邦人向けに講演をされたときのことでした。打ち上げのレストランにご挨拶に行くと、“今度、北朝鮮で試合をやるんだけど行くか?”って、突然誘われたんです」

 猪木とは初対面だった。当時所属していた全日本女子プロレスに確認することもなく、彼女は北朝鮮行きをその場で決めた。

「全女入りする前から、私は猪木さんの大ファンでした。猪木さんと一緒にいて何かを得られるのなら迷いはなかったです」

 その結果、大会2日目には当時の全女が自信を持って提供する「ブル対北斗」のシングル対決がマッチメイクされたのだった。

【次ページ】 徹底的に北朝鮮のお客さんに合わせちゃおう

BACK 1 2 3 4 NEXT
新日本プロレス
アントニオ猪木
リック・フレアー
力道山
村松友視
モハメド・アリ
原悦生
田中秀和
ブル中野
北斗晶

プロレスの前後の記事

ページトップ