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ホンダ・スピリット全開! 圧倒的強さで勝利したベルギーGPの表彰台で、HRC吉野誠メカニックが男泣きした理由 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byGetty Images / Red Bull Content Pool

posted2022/09/01 11:00

ホンダ・スピリット全開! 圧倒的強さで勝利したベルギーGPの表彰台で、HRC吉野誠メカニックが男泣きした理由<Number Web> photograph by Getty Images / Red Bull Content Pool

14番手スタートからオーバーテイクを連発し、逆転勝利を遂げたフェルスタッペン。レッドブルとしても完璧な1-2フィニッシュだった

 昨年までは、PUをどう使うのかはホンダの意思が優先された。しかし、今年のPUは開発・製造をホンダが行ったものの、使い方はレッドブル・パワートレインズ(RBPT)の意思が尊重される。昨年までホンダ内部の判断で行っていた仕事も、今年からはレッドブルのスタッフに確認してから行うことが増えた。

 仕事のやり方が変わっただけではない。F1から「Honda」の名前が公式に消えてしまったことは、現場で働くスタッフにとって想像していたよりも喪失感が大きかった。いくら勝利を重ねても、公式記録にホンダの名前は刻まれない。

「何のために戦っているのか……」

ホンダ・スピリットの現在地

 そんな心情を機敏に察知していたのが、ホーナーだった。

「ヨシ(吉野)に、『われわれの代わりに表彰式へ行ってほしい』と伝えてくれ」

 その伝令を聞いた吉野は頭の中が整理できないまま、表彰台へ向かった。夢にまで見た表彰台からの光景を目にした吉野は「なぜいまここに立たせてもらっているのか?」と自問し、あらためて自分がホンダの一員であるという思いを強くした。

「これまでホンダの人たちが努力してきたからこそ、その努力がいまこのパワーサーキットで花を咲かせた。だから、私はそのホンダの先輩たちとHRCを代表して立っているんだ」

 眼下に喜ぶレッドブルのスタッフが見えたとき、吉野の胸は思わず熱くなり、流れる涙で前が見えなくなった。

「レッドブルはいまもホンダに感謝してくれている。レッドブルというトップチームが、ホンダをここまで認めているのか……」

 ホーナーは表彰台の下で、微笑みながら吉野を見ていた。

「ヨシはチームメカニックとして、本当に素晴らしい仕事をしてくれている。 今日の1−2フィニッシュは、本当にチームの勝利だと思っている。それは、サーキットで仕事している者やレッドブルのファクトリーがあるイギリスのミルトン・キーンズにいるメンバーたちだけでなく、われわれをサポートしてくれているホンダのスタッフも含めてだ。栄光を掴むためには舞台裏で多くのハードワークが必要だ。今日はそれに貢献してくれたホンダに感謝する良い機会だった」

 公式記録にその名は刻まれなくとも、ホンダ・スピリットはいまもF1で戦い続けている。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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