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「病院の庭で首を吊ってやろうかって…」手術は15回以上、自殺も考えた女子プロレスラーKAORUが引退へ…語った“母と長与千種への感謝” 

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伊藤雅奈子

伊藤雅奈子Kanako Ito

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photograph byMarvel Compony

posted2022/08/04 17:00

「病院の庭で首を吊ってやろうかって…」手術は15回以上、自殺も考えた女子プロレスラーKAORUが引退へ…語った“母と長与千種への感謝”<Number Web> photograph by Marvel Compony

8月8日、ついに引退試合を迎える女子プロレスラーのKAORU

「長与さんが『絶対に試合をさせる!』と…」

――踵骨骨折、骨髄炎のときのように、心は折れませんでしたか?

KAORU 「あー、あたしだな」って思ったんです(笑)。「最後までやるよね」って、夫も笑ってました。引退試合っていうのをほんとにさせてもらえないんだなぁって、けっこうサバサバしてましたね。病院では、挨拶だけして引退だなってあきらめてた部分があったんですけど、付き添ってくれてた後輩から、長与さんが「絶対に試合をさせる!」とおっしゃってるのを聞かされて。もう1試合やってもいいんだ、ありがたいなぁって思いながら帰ったのを覚えています。

――この1年間は、ポジティブに過ごせていましたか?

KAORU そうですね。ここまできたら、(試合が)できるようになるまで休んでいいかなって。私のように体のなかにプレートやスクリューなどの異物が入っていると、痛みはずっと残るんですね。大腿骨も、踵もそう。それがなくなると、痛みが嘘みたいに消える。先生に「これを抜いたあとで引退するとなれば、どれぐらいになりますか?」って聞いたら、「8月8日は無理だね」と言われたので、8月8日は入れたまま試合をやります。

「長与さんを机でボッコボコにして、楽しくて楽しくて」

 90年代後半、全女という巨大帝国を唯一凌駕した女子プロ団体がGAEAだった。若手選手の急成長、大物選手の大量流入によって、上質なエンターテインメントプロスポーツショーを提供。選手層に厚みが増したことで、優等生レスラーだったKAORUは脱皮した。“凶器”乱舞で嬉々とする、ハードクイーンに開眼したのだ。

KAORU 尾崎とのD-FIX(ヒールユニット)は、ほんとに楽しかったです。やりたいようにやってたし、自由で、恐怖心なんてぜんっぜんない。怖いもの知らずでした。買い物しててもね、「これ、かわいいよね」なんていうのをコスチュームに取り入れたり。街を歩いてても、会場を見渡しても、「ここから飛べるんじゃないか」と(笑)。発想のすべてがプロレスでした。

――当時は、全身から楽しさがあふれていました。

KAORU もともと私は、長与さんみたいになりたいと思って、この世界に入ってきたんです。でも、なれるわけがない。デビル(雅美)さんに言われた「千種くんが太陽だったら、KAORUは月になればいいんじゃない?」という言葉がすごく響いて、「よしっ! それなら違う道に進もう」と。長与さんを机でボッコボコにして、飛鳥さんと凶器をぶつけ合って暴れてたときは、そりゃあ、楽しくて楽しくて。GAEAができてからの数年間は、1期生を育てなきゃと必死で、朝から晩まで道場にいて、自分のすべてをあの子たちに注いでいた。だから、そろそろ自分の番かなぁと、爆発したんでしょうね。

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